赤い映画:チェチェン包囲網

チェチェン包囲網 [DVD] チェチェン包囲網 [DVD]
(2011/07/29)
ヴァチェスラフ・クリクノフ、セルゲイ・ウマノフ 他

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2008年ロシア・ブルガリア製作 原題『ПЛЕННЫЙ』(虜囚)

今回も彩プロイズム満載のDVDパッケージですが、さすがにどうかというレベル*。
本編にMi-24ハインドは一切出てきません。出てくるのはMi-8/17 一機のみ。
DMMのサイトにあるレンタル版のパッケージには「敵陣突入!空挺作戦敢行!」とあります。
もちろん空挺作戦なんてこれっぽっちも敢行してない。
さすがにまずいと思ったのかセル版ではその文字は消えています。

だからといって本作はいまいちな作品ではなく、正統的なロシア戦争映画の雰囲気を持つ佳作です。
何度も書きますがこの手のパッケージのロシア映画に素人は手を出してはいけない。

【あらすじ】
チェチェン紛争。ロシア連邦軍の一部隊が山間部で孤立する。ルバハとヴォフカの二人は脱出して本隊に戻るが、本隊の救援は得られなかった。彼らは地理に詳しい現地民を捕虜に取って、脱出ルートを伝えるために部隊に戻ることになる。兵士2人と捕虜1人の行軍。次第に彼らには仲間意識が生まれ始めるが・・・

■戦場の風景
主人公のルバハは戦場慣れした寡黙な兵士。
相棒のヴォフカは典型的適当ロシア青年。

2人が乗ったトラックの薄暗い荷台から映画は始まります。
本作の雰囲気がすぐに伝わってくる印象深いシーンです。

その後攻撃された部隊から脱出して、彼らは本隊に戻りますが、その本隊を指揮する少佐がなかなかキレていてよいキャラクターです。

この少佐を指揮する将校も登場し、地位の高そうなチェチェン人と会話をするシーンがあります。
やや意味が解りづらいのですが、非常に興味深いシーンで、おそらく彼らは取引をしていると思われます。

つまり、チェチェン人は他派閥のチェチェン人部隊の情報を売り、ロシア軍はその情報を元に敵部隊を攻撃し、捕虜をとり、武器を鹵獲。
そしてその武器を情報提供をしたチェチェン人に横流しする、といった取引です。

実際にチェチェン紛争では、現地の部隊が資金等を得るために武器を横流しして、その武器で自分たちが攻撃されるということが頻発していました。
敵と味方という単純な関係ではない、混沌とした戦場の現実。

生け捕り作戦に成功したロシア軍将校はチェチェン人に言います。
「せっかくですからお祝いの乾杯を」
「酒はいらない。私はお茶の方が」
「お茶は心を寛容にしてしまう。少しはお酒も飲んだ方がいいわ」と給仕をしているアンナ。
「彼は俺たちロシア人とは違う」
「・・・戦火に送りこんだ部下に同情心は?」
「感じるが何もできない」ウォッカを飲む将校
「・・・お前の言うとおりだ」とチェチェン人もウォッカを飲み干す。

こういった場面が本作に雰囲気を与えています。
また素人考えですが、ロシアの戦争映画は戦闘部隊を支える後方部隊や現地民間人、女性の寄る辺のない風景も織り交ぜて描くのが特徴なのではないかと思います。
本作でもそういったシーンが描かれています。

■3人の行軍
ルバハが捕まえたのは若いチェチェン人。
これがイケメン。というかやや中性的。
で、なんだかウホッというかアッーというか危険な雰囲気がルバハとの間に漂う(ように見える)。
キレてる少佐もこのチェチェン人捕虜(名前はあるのですが書いてしまうと面白くないので伏せておきます)を自分が使うといってルバハから取ろうとする…

ルバハは有能な兵士である一方、一定の人間らしさを失うまいとする善人として描かれていますが、なぜ捕虜に対してそうするのかの説明がなく、見つめ合うルバハと捕虜・・・といったシーンがたびたびあるので、これはどうなるんだと別な方向の心配をしてしまいます。

あるいはこれもこの映画の意図するところかもしれません。
男しかいない軍隊ではそういった暴力もあると聞きます。

このような別の不安定要素も含んだ3人の行軍は、ロシア映画らしい何とも言えない結末で突然に終わります。
コーカサスの虜』は傑作ですが、『チェチェン包囲網』もなかなか悪くない作品です。

■細かい設定について1-舞台
ロシア軍将校と話すチェチェン人が「シャトイで砲撃を受けた」という言葉を発します。
おそらくルバハとヴォフカの部隊はシャトイ周辺で攻撃され、孤立したと思われます。

シャトイはグロズヌイから南へ60kmほどにある山間部の街で、第一次チェチェン紛争時にロシアのニュースでたびたびその地名を聞いたのを思い出します。


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ちなみに「シャトイ」とはシャトー、つまり城なのでおそらくこの土地には帝政ロシア時代には城塞か何かがあったのではないか、と思いましたがどうでしょうか?
城塞があるということは、つまり交通の要衝ということです。

■細かい設定について2-装備品
ルバハはAK-74を、ヴォフカはドラグノフを装備。
ドラグノフのスコープには普段はカバーがかけられており細かい。

ヴォフカがドラグノフのスコープで村などを索敵するシーンがなかなか良いのですが、スコープの左下に曲線状の簡易測距目盛が入っていません。
管見の限りドラグノフの一般的なスコープには簡易測距目盛があるはずなのですが、新しいタイプのスコープでしょうか?
あるいは単に画面を見やすくするために省いたのかもしれません。

かの有名な軍用スコップも3人のやりとりを演出する小道具としてチラリと出てきます。


ということで、本作は少し細かい部分もありつつも、派手な戦闘シーンや流血シーンもないので、そういったものが苦手な人、一味違う戦争映画を見たい、という人にはお勧めかもしれません。