科学技術政策 (日本史リブレット) (2010/07) 鈴木 淳 |
「科学技術」か「科学・技術」か?
この話題はSTSやコミュニケーション関連のちょっとした集りに行くと必ず繰り返されるテーマです。
そのたびに、ああまたか、と思うのですが、
「科学技術」という言葉の起源を交えつつ、近代日本の科学技術政策の流れをまとめたのが本書です。
6月ごろ買ったのですが、内容と関連の強い出来事がありました。
8月25日に日本学術会議が、「総合的な科学・技術政策の確立による科学・技術研究の持続的振興に向けて」という勧告を出したのです。
この勧告の第一の項目として、以下の文章が書かれています。
法における「科学技術」の用語を「科学・技術」に改正し、政策が出口志向の研究に偏るという疑念を払拭する(以下略)
また、「科学技術」という言葉の問題点について、勧告では以下のように書かれています。
我が国において従来用いられてきた「科学技術」は、国際的に用いられる「science and technology」(科学及び技術)に対応する意味ではなく、「science based technology」(科学に基礎付けられた技術)の意味で政策的に用いられる傾向が強く見られ、結果として、政策が出口志向の研究に偏るとの疑念を生んでいる(以下略)
要するに科学技術政策において基礎研究がおろそかにならないように、言葉として科学と技術をはっきり分けて法をつくるべき、という話です。
一見くだらない話のようにも思えます。ですが、そうでもない面もあります。
本書では「科学技術」の言葉の起源について記述しており、それを理解すると今回の勧告の意味もすこしわかってきます。
本書の内容を要約すると以下のようなことになります。
・「科学技術」という言葉は明治期からちらほら使われていた
・公式の場で初めて使われたのは1940年(昭和15年)、全日本科学技術団体連合(学会等の連合組織)の誕生から
・当初組織名は「科学及び技術団体連合会」だったが企画院の影響で、「科学技術」になった
・1942年(昭和17年)、文部省は「科学技術」に「基礎に属する科学は含まぬ事としたし」と申し入れた
つまり「科学技術」という言葉の発生には、国家動員による技術振興の意味合いが強く含まれている、ということです。
確かにこういった経緯があると、「科学技術」を「・」で分ける意義があるように思えます。
法において言葉はすべてですからね。
ただし、本書ではもう一点、科学技術政策の問題点の歴史的起源について指摘しています。
・明治維新後の官僚制度のなかで、技術職である技術官は試験任用のため、公平性があり待遇も高かった。
(他は採用者の判断のみで任用できる自由信任なのでいわゆるコネ入所が横行する)
・1899年(明治32年)の文官任用令改正で高級官僚の任用対象から技術官が除外される
・これは行政体系が成熟してきたため、行政の専門家である法学出身者が高級官僚として専門的にあたるべきという考えからきている
ということで、現在につづく文系中心の社会組織ができていったように思えます。
現在は法令によって制限されているようなことはありませんが、やはり文系と理系の待遇の差はあります。
「科学・技術」としただけでは、基礎科学も重視するということにはならないでしょう。
具体的に比較はしていませんが、前日の8月24日に出された「ホメオパシーについての会長談話」に比べると、メディアにおけるこの勧告の扱いは小さかったように思えます。
「科学」と「技術」が円満解散となるか、なし崩し的に元の鞘に納まるか、だれも注目しないか。さて。