放射線については素人ですが、3月23日から4月28日まで簡易計測機で都内の放射線を計測してみたので、結果をまとめてみました。
放射線の値については絶対値として正確かどうかはわかりませんので、あまりあてにしないでください。
ただ、全体の傾向として減っていった、ということは確かなようです。
以下長々レポート風に書きますが、面倒な人は「概要」だけ読んでちょうだい。
間違い等あれば突っ込みお願いします。
■概要
東京都内にて、ガンマ線を検出する「はかるくんメモリー」を用いて3月23日から4月28日まで測定したところ、この期間中の最高値は0.094μSv/h、最小値は0.049μSv/hであり、徐々に低下していった。
これらの値は、過去のデータから得られている東京における平常値0.36μSv/hよりは高く、福島第一原発事故の影響によるものだと考えられるが、空間線量としては健康に影響はないレベルであると考えられる。
なお、測定器はCRTディスプレイの影響を受けたため、測定にあたっては電磁波を発する電子機器の影響を受けない場所であることを注意すること、簡易型の測定器のため限定的な能力であることを留意する必要がある。
■目的
東京都内の放射線量やその推移を自ら計測することで、現状を可能な範囲で把握するとともに、見えないものを計測する意義について学ぶことを目的とした。
■方法
・測定器具
簡易放射線測定器「はかるくんメモリー」(富士電機)を用いて測定。測定器は文部科学省の委託によるJSF(日本科学技術振興財団)の無料貸し出し事業により5台を入手・利用した。
仕様(参考資料1に一部補足)
測定放射線: ガンマ線
検出器: シンチレーション式:Csl(TI)(ヨウ化セシウム結晶)にガンマ線が当たった時に生じる光を検出する方法
感度、係数効率: 0.01μSv/hにおいて10cpm以上(注1)
指示誤差: ±10%
エネルギー範囲: 150keV~3MeV (150keV~3000keV)(注2)
測定範囲: 0.001~9.999μSv/h
サンプリング時間: 60秒
表示間隔: 60秒間の計測値(移動平均値)を10秒毎に表示
・測定方法
筆者ssnについては下記の手順で測定した。
その他の4台についてはS氏、K氏、N氏、C氏が使用し、それぞれの方法で測定した。うちN氏とC氏については数値を記録しないで使用した。
測定は屋外で行い、1分毎に計測値が記録される「自動記憶モード」を用いて計測した。
「はかるくんメモリー」は電源を入れると35秒後から数値が表示される。計測値を計測場所に設置し、さらに2~3分たった後の10分間のデータを用いた。
計測場所は東京都大田区鵜の木付近。
軒下に置かれた自転車のサドル(地上高約80cm、建物壁面(右方のみ)から約30cm)に計測機を乗せて計測した。
計測期間は2011年3月23日から4月28日の間。計測場所に不在の場合は測定しなかった。
計測は概ね0時~4時の間に実施した。
その他の補足的データの計測方法については結果内を参照。
■結果
・屋外における継時的計測
測定初日の計測値は0.094μsV/hだった(ただしこの日のみは1分毎10分間の平均値ではなく、1分間表示の値)。
この値は、東京都における平均値0.036μsV/h(注3)よりは高い値である。
なお、仮にこの値が一年間続いた場合の値は、0.823mSv/yとなる。
毎日計測したところ、その値は1週間毎に見ると一週間後の3月30日は0.074μSv/h、4月6日は0.065μSv/h、13日は0.057μSv/h、20日は0.049μSv/h、28日は0.052μSv/hであった(図1,全データはこちら)。
図1(クリックで拡大) 東京都大田区における放射線量の変化。測定値を灰色、平均値を赤で示した。バーは標準偏差。
なお、日毎の計測値には平均から約0.005~0.01のばらつきがあった。また、「はかるくんメモリー」の指示誤差は±10%である。これらの点からも前日やその次の日の計測値との比較で差があるとは言えない。
しかし、全体としては減少していた(有意差あり、一元配置分散分析P<0.001)。
・都内の他の計測結果との比較
図1で示したグラフに、その他の計測データを追加した(図2)。
追加したデータ5点の概要は以下の通り。
測定場所 測定者 測定器 測定方法(注4)
——————————————————–
中野丸山 S氏 はかるくんメモリー 10秒毎計測7回分平均値(参考資料2)
高円寺 K氏 同上 同上(参考資料3)
市ヶ谷 同上 同上 同上(参考資料3)
新宿 文科省 不明 1時間毎に測定。その日の最大値(参考資料4)
大岡山 東工大 不明 不明(参考資料5)
——————————————————–
図2(クリックで拡大) 都内6ヶ所の放射線量
それぞれの場所で測定方法が異なるため、測定間の高低の差について単純な比較はできない。
しかしどの場所においても減少傾向が見られた。
・屋内での計測-電子機器の影響
N氏やC氏が屋内や屋外の様々な場所で測定したところ、多くの場所の間で差が見られた。
「はかるくんメモリー」添付の資料(参考資料1)には電化製品、携帯電話、レーダー施設、通信施設がある場合、測定値が高い値を示す場合があることが記されている。
これらの電子機器からは電磁波が発せられており、「はかるくんメモリー」が測定するガンマ線も電磁波の一種である。
そこで、室内の電子機器周辺(すべて作動状態)等での測定を行い、実際に差があるのかどうか確かめてみた(図3)。
なお、測定は屋外での方法と同じく、1分毎計測値を10回とり、その平均を求めた。
図3(クリックで拡大) 電子機器の影響 測定値を灰色、平均値を赤で示した。バーは標準偏差。
PC机上: 0.046μSv/h
測定場所詳細: 液晶ディスプレイ(19型 Princeton PTFBSF-19RWおよび15型 EIZO FlexScanL367)の正面から約30cm、PC本体から約70cm
PC上: 0.045μSv/h
測定場所詳細: デスクトップ型PC(富士通FMV ESPRIMO D5230)を横置きにし、DVDドライブが内蔵されている場所の上
机上: 0.050μSv/h
測定場所詳細: PC用液晶ディスプレイほぼ正面から約170cm、CRTディスプレイ正面から約110cm離れた机の上
CRTディスプレイ前: 0.076μSv/h
測定場所詳細: ブラウン管テレビ(三菱28W-FK22)のディスプレイに計測機を接触させて計測
4ヶ所の測定結果を比較すると、有意差が見られ(一元配置分散分析P<0.001)、CRTディスプレイ前で測定した場合、測定値が高くなることが分かった。
■考察
・減少傾向について
「はかるくんメモリー」による東京都大田区鵜の木における空間放射線量は、3月23日から4月28日までの間で減少していった。同じ「はかるくんメモリー」を用いた計測値や、その他の計測結果からも、東京都内の空間放射線量は減少していったという共通性があった。
その他の地域のデータ(参考資料4)から判断すると、この間、新たな大規模な放射性物質の降下は東京では起こらなかった可能性が高いと考えられる。
放射線量が減少した原因としては、放射性物質の拡散と放射性物質の半減期の両方があると思われるが、それぞれがどの程度の影響があったのかは当然わからない。
・健康への影響
表示された数値から判断すれば(「測定値についての注意」後述)、計測期間中のどの数値が長期的に続いたとしても、健康には影響はないと考えられる。
例えば最も高い値だった0.094μSv/hが一年間続いた場合、累積で0.823mSvを浴びることとなる。
これは過去のデータ(参考資料1)から得られる東京の年間量0.315mSV/yに比べると明らかに高い。
一方世界には、自然放射線量が高い地域があり、香港では0.67mSV/y、ラムサール(イラン)では10.2mSV/y、ガラパリ(ブラジル)では5.5mSV/yとされているが、がんの発生率には影響がないとされている(参考資料6)
ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告では、平時において一般人の年間被曝量は1mSv以下とされている。
また、50mSv/y以下はがんによる死亡率の上昇はなく、200mSv/hで1%上昇するとしている。
このICRPの基準は、広島の被爆者のデータを用いている点などから、長期の低放射線被曝、内部被曝や低年齢における影響が明らかではないことなどがECRR(欧州放射線リスク委員会)などから批判されている(参考資料7)(注5)。
しかし現状では影響について議論がある200mSv以下の中でもさらに1mSv以下である点、高自然放射線地域での知見で影響がないとされていること、加えて現状では測定放射線量が低下しつつあるため、累積で既述の0.823mSvより低くなる可能性が高いことから、現時点では健康に影響を与える可能性は十分に低いと考えられる。
・電子機器の影響
CRTディスプレイ直前では有意に高い放射線量が測定されたが、110cm離れると影響はなかった。液晶ディスプレイについても30cm離れると影響はなかった。
電子機器の影響についてはディスプレイの距離を変化させて測定することや、携帯電話の影響についてもう少し詳細に調べることが必要であるが、「はかるくんメモリー」説明書(参考資料1)にある、電化製品から20cm以上離して使用すること、という指示に従うのがよいと思われる。
・測定値についての注意
1分毎に計測したところ、測定値にはばらつきがあった。このため、正確な測定には十分な回数測定し、その平均を求めることも必要である。
「はかるくんメモリー」を用いた計測値を評価するうえで、(私にとって)最も不明なのは、どのようにして表示される単位であるμSv/hに換算しているかという点である。
当該測定器は、検出した電磁波(あくまで電磁波であって、ガンマ線だけではない)の一分間あたりの回数(cpm)から、1秒間の単位体積あたりの崩壊数(Bq/cm3)を計算し、さらに核種と放出する放射線を加味して、生物に対する影響を表す指標であるμSv/hを算出していると思われる。
これらの「はかるくんメモリー」での算出方法がよくわからない。
例えば、ベータ線を放出するのは放射性ヨウ素131だけではなく、セシウム137などもある。
また、ヨウ素131とセシウム137はガンマ線だけではなく、ベータ線も放出する。
ベータ線は電子のため「はかるくんメモリー」では測定できない。
また、プルトニウム239などが出すアルファ線も検出できない。
これらのことから、複数の核種から放出された複数の放射線の影響を正確にシーベルトとして表示しているのかどうか、という点では不明である。
もっとも既述したとおり、平均値を一定期間測定し、その変化を見る数値としては問題はないと思われる(注6)。
「はかるくんメモリー」はあくまで平時における自然放射線量を測る簡易測定器であるということを念頭に置く必要がある。
■感想・謝辞
これまで筆者による測定を中心にまとめてきたが、N氏とC氏は異なる観点で「はかるくんメモリー」を用いた。両氏は同時期に光について対話するイベントの企画を進めており、企画を練る一環として、「はかるくんメモリー」を用いて様々な条件での放射線を測定した。
ガンマ線も光(可視光)も電磁波の一種である。人間には見えないもの、あるいは見えても定量化できないものを測定することで、人の意識がどのように変化するか、何を考えるかというイベントのテーマを考える上で、放射線の測定は非常に大きなインスピレーションを与えた。
筆者自身も自分自身で放射線を測定することで、測定自体について、放射線について、そして安全基準について多くのことを学ぶことができた。
最後に「はかるくんメモリー」を御貸与頂いた科学技術振興財団、測定に協力いただいたS様、K様、N様、C様に感謝いたします。また、計測情報を「放射線測定ネットワーク」に掲載していただいた@otomitv様に感謝申し上げます。
そして、ここで記述した放射線量よりはるかに高い環境下で事態収束にあたっている方々、影響が心配される地域で生活されている方々が一刻も早く、普段の生活に戻れることを祈っています。
■注
注1: 0.01μSv/hの時は、1分間に10回以上検出しているということか。0.01μSv/h≒10cpm?なお、cpm→Bq/cm3→Sv/hと計算していると思われるが式は不明。
注2: どういう意味か不明。検出できる光(電位)→ガンマ線のレベル→核種に関係ということ?エライ人教えて!
注3: この値は1990年~1998年にはかるくんの貸出を受けた者が屋外で測った値を都道府県別に平均した値(参考資料1)。測定方法にばらつきがあると思われ、また測定数も不明だが、概ね参考になる値かと思われる。
注4: S氏とK氏の測定データについて、同日の昼と夜の2回計測している場合は、ssnのデータを合わせるために夜のデータを使用した。また、一部の日においては、例えば測定がn日の23時50分といった場合は、n+1日の測定データとして用いた。
注5: ECRRは”The methodology proposed by ECRR for estimating radiation risks from internal emitters is arbitrary and does not have a sound scientific basis”などと英国保健省に批判されていたりもする(参考資料8)。一方ECRRはECRRで、ICPRに対して適切ではない論文ばかり引用していると批判している(参考資料7,p.20)。
注6: 異なる核種が異なる時期に放出されたりすると、わけがわからなくなるかもしれないが・・・ また、「はかるくんメモリー」は校正されているのか、されているとしたらどのような方法で行っているのかも少し気になる。貸出期間は1ヶ月とのことだったので、回収後その頻度で適切に校正されているのだとしたら、十分だと思われる。
■参考資料
1: 文部科学省「「はかるくん」を利用するために」 (一部内容についてはウェブ版にも記載)
2: S氏「はかるくんメモリー測定値(Radiation Data)」
3: K氏「はかるくんメモリー測定値」
4: satoru.net「東京都(新宿区)/ 全国の放射能濃度」※数値は文科省のサイトから取得
5: 東京工業大学総合安全管理センター「東京工業大学大岡山地区・すずかけ台地区放射線量測定データ」
6: 公益財団法人体質研究会「世界の高自然放射線地域」「高自然放射線地域における疫学研究」(これ論文とかないのかね・・・?)
7: ECRR(欧州放射線リスク委員会)「ECRR(欧州放射線リスク委員会)2010年勧告」
8: Health Protection Agency「2003 Recommendations of the European Committee on Radiation Risk」