ミミズからセシウムを検出

2月6日の各社新聞報道によると、福島のミミズから放射性セシウムが検出されたとのこと。
研究が出るだろうと思っていましたがとうとう出ました。

20120208-1

調査したのは森林総合研究所の長谷川元洋氏ら。土壌生態学の専門家の方です。
結果は3月17日からの日本生態学会で発表されるそうです。一般的な学会前報道からするとちょっと早いような気もしますが、ニュースバリューが大きいためかもしれません。

それぞれのタイトルは以下の通り。
毎日「放射性セシウム:福島県川内村のミミズから検出」
産経「ミミズにセシウム蓄積 福島・川内村、1キログラム2万ベクレル」
NHK「福島 ミミズから高濃度セシウム」

これらの情報をツギハギすると以下の要領で調査しているようです(あくまでツギハギなので誤っている部分もあるかもしれません。悪しからず)

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測定時期: 2011年8~9月

測定場所(以下の国有林):
川内村(20km圏): 約1万9000Bq/kg
  (土壌約138万Bq/m3、空間線量3.11μSv/h)
大玉村(60km圏): 1000Bq/kg
  (土壌約8万-12万Bq/m3、空間線量0.33μSv/h)
只見町(150km圏): 290Bq/kg
  (土壌約2万Bq/m3、空間線量0.12μSv/h)
(*土壌と空間線量は同時期に林野庁が調査したデータ)

測定方法:
40~100個体を採取。5匹の平均で検出(?)
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福島第一に近いほど空間線量および土壌の放射線量が高く、同時にミミズの放射線量が高い結果となっています。
ちなみに直接比較に意味があるかはさておき、「一般食品」の場合厳しくなった新基準では100Bq/kg以下とされています。

ネット上では「生物濃縮」という言葉が飛び交っていますが、実際どうなのでしょうか。
生物の体内に取り込まれた物質のうち、体外に排出されにくく、安定性の高い物質は体に蓄積していきます。今回ミミズの体内でセシウムがどれだけ生物濃縮されているかは、この報道だけではわかりません。

まずどのようなミミズをどのように測定したのか?
おそらくミミズはフトミミズなどの大型のミミズ(5-10cm程度)だと思われます。
余談ですが、小型のヒメミミズ(1cm程度)は、欧州ではよく重金属の土壌汚染指標動物として用いられています。
で、この大型ミミズの腸内には土壌が詰まっており、湿体重の20%は腸内の土だと言われています (Biology of Earthworm, Edwards & Lofty 1977)。
一定期間絶食させて腸内の土をなくしたり、解剖してから測定したのか。そうでないのか。

また、どのような個体をどのような土壌から採取したのか。
個体密度は植生や局所的な条件でかなり異なります、林の場合、100-200匹/m2くらい?。重量にしてもかなり条件によって変わり数-100g/m2くらいでしょうか?
水分を抜いた状態での乾燥重量を用いる場合は、湿重量の1/5程度になります。そして土壌の密度、水分量、組成も・・・

生物濃縮については専門的に学んだことは全くありませんが、これらの条件(かなりおおざっぱですが)と、セシウムは無機物であるということも考えると、1000倍、1万倍といった顕著な生物濃縮が行われているとは考えにくいように思えます。

もちろんゼロではないでしょう。ちょっと論文を検索してみました。
アブストラクトしか読めないので詳細はわかりませんが、下記の論文では、10cm前後の大型ミミズであるAporrectodea longaの腸を除去して測定した場合、摂取した放射性セシウムの5-25%が残留していたとあります。
Environ. Pollut. 1995;88(1):27-39.
Earthworms and radionuclides, with experimental investigations on the uptake and exchangeability of radiocaesium.
Brown SL, Bell JN.
腸内容物を除去した個体の乾燥重量移行係数(組織中セシウム濃度/基質中セシウム濃度)は、条件によって異なりますが、0.03~0.05。つまりミミズのセシウム濃度は土壌中のセシウム濃度の3~5%ということです。
キノコでは5~12という乾燥重量移行係数が知られており、この場合は土壌よりもキノコの濃度が高く、濃縮されているということになります(原発事故関連情報(6):森林生態系における放射性セシウム(Cs)の動態とキノコへの移行」(2011.6.1))。
ミミズの移行係数は、オーダーとしては、米やその他農作物と同様のようです。(原子力環境整備センター「土壌から農作物への放射性物質の移行係数」(1988)

論文では、放射性セシウムでラベルした土壌で飼育した場合と同じくラベルしたリンゴのリターと土壌を混合して飼育した場合では、結果がやや異なることも示唆されているようです。
土壌は水中と比べてかなり複雑な環境です。今回どのような土壌を調査したのかによって結果の解釈は異なってくるでしょう。

もう一つ重要な情報としては、再処理した土壌や土壌/有機混合物で3ヶ月飼育した後の個体からはセシウムは測定できなかったと書かれています。体内に取り込まれたセシウムも排出されたと考えられます。
とはいえ、福島の林の場合は相変わらず高線量汚染されているわけですので、再び汚染された土壌を食べ、そのいくらかは体内に取り込まれ排出されということを繰り返すことになります。そもそも移行係数が小さくても元の土壌のセシウム濃度が高いのが問題です。

ということでもう一度注意深く元のネット記事を読むと、「ミミズで生物濃縮が起こっていた」とはどこの記事も書いていません。「ミミズから検出された」「高濃度」「食物連鎖で他の動物に蓄積していく可能性がある」などと書いてあります。

問題はミミズを食べる生き物への影響でしょう。
ミミズを餌とするモグラや鳥はミミズを大量に、それも腸内の土ごと食べるので、影響を受ける可能性は十分あります。今後の研究が待たれます。

土壌の汚染は極めて深刻であり、落ち葉は放射性物質が留まりやすいために土壌動物は常にそれらにさらされ続けます。
物言わず静かに、しかし大量に生きているミミズやその他の土壌生物への直接的影響も気になります。

【2012年2月9日追記】
・記事リンクとタイトルを追記
・移行係数、残留性に関して追記
・ミミズの汚染がゼロではないことを強調し、土壌汚染が深刻である文を追記

しかし我ながらいまいちなエントリ。
追記でちょっとましになったが、ぼんやりと否定しているだけであまり情報がない。
書いてみるとやはり難しい…
あと「生物濃縮」と言っている人は、ミミズで生物濃縮されているかどうかを言っているのではなく、土壌とミミズの汚染がひどいことに懸念を示しているのであって、それは当然間違いでもなんでもない。それに対して生物濃縮云々いうのはすれ違いの元でしょう