赤い映画:レッド・スナイパー~独ソ最終決戦(前・後)

レッド・スナイパー~独ソ最終決戦~前編 [DVD] レッド・スナイパー~独ソ最終決戦~前編 [DVD]
(2011/06/21)
ビクトリア・トルストガノバ

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レッド・スナイパー~独ソ最終決戦~後編 [DVD] レッド・スナイパー~独ソ最終決戦~後編 [DVD]
(2011/06/21)
ビクトリア・トルストガノバ

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出ました!!
ソ連だったらなんでも「レッド」をつける!
ベルリン戦でもないのに「最終決戦」!
キャッチコピーは「脅威の限界射程!」そしてメインタイトルに「スナイパー」とあるが主役は別にスナイパーではない!
DVDジャケットの写真になぜ敵ドイツ兵を選ぶ!

これでもかというくらい本編と違うパッケージで攻める、流石は彩プロのDVD。

原題は “На безымянной высоте” (名も無き丘の上で)。
2004年のロシアテレビシリーズ全4話がDVD2本に収録されています。

第1話
1944年、ベラルーシ西部。湖沼に囲まれ、塹壕で守られた89高地を前にソ連軍部隊は停滞し、敵狙撃兵によって士官や狙撃兵を失っていた。そこに連邦射撃選手権優勝の腕をもつオルガ、刑期短縮と引き換えに兵役に戻ったコーリャ、後方での療養を終えたベソノフ伍長、そしてマリューチン中尉がやってくる。

第2話
ドイツ軍の意図を探るため、マリューチンの部隊は敵士官を確保せんと敵陣に侵入、オルガは敵狙撃手と対決する。秘密保持のために捕虜を必ず射殺する敵狙撃手。しかし今回彼は撃ち漏らす。その意図は?

第3話
大規模な攻勢を前に89高地に威力偵察を実施することになり、マリューチンの部隊に命が下る。オリガはコーリャと組むことを命じられ、敵狙撃手と再び対決する。

第4話
オリガは敵狙撃手との最後の対決に挑む。そして元囚人11名を加えたマリューチンの部隊は絶望的な任務を果たすため、89高地に向かって突撃する。

本作品はソ連軍の女性狙撃手一人が主人公となっているドラマではなく、偵察部隊に所属する面々の群像劇であり、幾つかのストーリーが並行しつつ、89高地をめぐる戦いに収束していく構成になっています。

主要登場人物は以下の通り
 無口な狙撃手オルガ・ポズネエワ軍曹
 お調子者のコーリャ・マラホフ二等兵
 部隊の父のごとき老兵ベソノフ伍長
 仕事もプライベートもできる男マリューチン中尉
 彼らが所属する第14連隊の指揮官イノゼムツェフ少佐(元会計士)

他にもヴァンダムちょい似のフィンランド帰りのステパン軍曹、部隊と交流する地元農家の老夫婦、少佐と対立する大尉などもストーリーに絡んできます。

オルガはストーリーをひっぱる主役ではありませんが、やはり最も目を引くキャラクターでしょう。どこかリュドミラ・パヴリチェンコに似ているような気もするオルガ役のヴィクトリア・トルストガノワは、銃を担いで行軍したり、何時間も匐射姿勢で藪に潜むことができそうな、骨太な部分を持っておりなかなか魅力的です。
スターリングラード」のジュード・ロウはスマートすぎて、どう見てもシベリアのマタギには見えんかった…
日本だったら薬師丸ひろ子とか、今ならへたすりゃ綾瀬はるかとか出てきかねん。

それはさておき、相方のコーリャはどこかで見た顔と思ったら「チェチェン・ウォー」に出ていたアレクセイ・チャドフ。
ロマに弾が当たらない魔法をかけられたとうそぶくコーリャと一撃必殺のオルガの対比や、緊張感のある狙撃シーンをコーリャをぶち壊すのは、スナイパー映画に対するアンチテーゼのようにも思えるが、まぁ深読みのしすぎか。

彼がこの映画をいい意味でも悪い意味でも暗くしていないのですが、それにしても狙撃シーンがあっさりしていてかゆい所に手が届きそうで届かないのが本作の欠点の一つだと思われます。
最後の対決もニュータイプ同士の戦いみたいになっているのは一体何?

他にも戦闘シーンがいまいち迫力に欠けていて、志村後ろ後ろ!的な死に方をする奴が多いのも残念。
威力偵察を行う偵察部隊と狙撃兵という題材は非常に面白いのですが、どうもそれぞれの話が薄く、まとまりがない印象を受けました。ラストももっと殺伐としたものを期待していたのですが・・・

別な見どころとしてはT-72を元に再現した、IS-2ティーガーでしょうか。
砲塔を張りぼてで成形、さらにフェンダーを一部除去したり、車体に交換用履帯や燃料タンクなどを装備してそれっぽく見せています。しかしどちらにしても砲身はいじらず、太い砲身と特徴的なマズルブレーキは再現されていないので、どうも軽く見えます。
冷戦期の西側映画では西側の車両・機体でいかにソ連のモノを再現するか、というのが一つの見どころだったわけですが、ロシア自身がかつてのソ連・ドイツ車両をどう再現するか、というのもなかなか面白いですね。
ソビエト侵攻―バルバロッサ作戦1941」ではSO-152を一切いじらずマーキングのみでドイツ戦車(4号戦車?)の役をあてていました。

話がそれましたが、本作で描かれた一部隊のドラマは東部戦線の中でどこに位置づけられているのでしょうか。
それはドイツに対する一大反攻作戦であるバグラチオン作戦だと思われます。バグラチオン作戦は1944年6月22日に始まったので、本作で明示される「1944年」には合致していますが、89高地をめぐる戦いがバグラチオン作戦の前の戦闘なのか、その一部の戦闘なのかはちょっと断定できません。池で水浴びをするシーンがいくつかあり、暖かそうなので作戦中と思われますが...
この作戦の成功でソ連軍はベラルーシからポーランドまで進出し、ドイツ軍の敗走が決定的になるわけなので、まあ本作のタイトルに「独ソ最終決戦」とあるのは完全な間違いか、というとそうでもないような気がしないでもないでもない、といったところです。

バグラチオン作戦でソ連軍は約18万人もの戦死者を出しました。その中に、本作で登場した人々も含まれるわけです。
出撃を前にマリューチンとイノゼムツェフは当時の人気映画「チャパーエフ」の挿入歌を歌いますが、goo映画のあらすじを後で見て、初めて彼らがこの歌を歌った意味がわかりました。

ちなみに本作のタイトル “На безымянной высоте”と同名の歌(1963)もあります。
http://www.sovmusic.ru/download.php?fname=nabezim1
ちょっと軽めのこの作品もこれらの歌を脳内再生しながら見ると、多少重くなるかもしれません。