続)Handbook of Service Science

  • 2012年8月2日

ゼミで輪読したHandbook of Service Science。
私は2つの章を担当しました。
一つ目についてはこちら。
本エントリはもう一つの章について紹介します。

●Part3-1: Technology’s Impact on the Gap Model of Service Quality (pp.197-218)
M.J. Bitner, V.A. Zeithaml, D.D. Gremler
本章では、サービス品質に関するフレームワークである「ギャップモデル」(Parasuramanet al., 1985)と技術がギャップに与える影響について解説しています。          

■ギャップモデル

20120802-2

ギャップモデルとは、顧客が期待しているサービスと提供者が実際に提供しているサービスのギャップ等を比較することでその質を評価するモデルです。
このギャップには、大きく分けて”Customer Gap”と”Provider Gap”の二つがあり、さらに 後者は4つのギャップに分けられています(後述)。

そして情報技術はサービスとギャップの発生および解決に大きな影響を与えており、スマートサービス・遠隔医療(テレケア)・ネットビジネス・ネットジャーナルなどの非対面サービスが生まれていると述べています。

一方で、以下のように顧客や従業員にとって情報技術的サービスが常に最善の解であるとは限らないといことを指摘しています。
・プライバシー情報の流出、不正使用に対する懸念
・全ての顧客が情報技術に興味があり、それ扱えるわけではない“Technology Readiness”の問題
・従業員同士の接点が少なくなり、QOLが下がるという問題

■Customer Gap
顧客ギャップとは、顧客が期待しているサービスと提供者が実際に提供しているサービスのギャップ。
Parasuramanetら(1988)が以下の5次元からなる「サービス品質の5次元概念モデル」を提示しています。
・有形性 Tangible: 設備や従業員の見た目がよいこと
・信頼性 Reliability: サービスを確実に提供すること
・反応性 Responsiveness: 顧客の要望に応えて迅速にサービスを提供すること
・確実性 Assurance: 正確な知識と誠実さで対応すること
・共感性 Empathy: 適切なコミュニケーションで顧客に配慮すること

見えない、あるいは試行できないサービスを顧客はどのように知るのか、どのように顧客はサービスの質を見極め、判断しているのかをオペレーションレベルで明らかにすることがギャップモデルの目的ということのようです。

具体的には上記5次元に対応する22項目からなる質問紙があり、これを用いて顧客ギャップを明らかにするようです。選択肢は7段階のリッカート尺度。
ちょっとgoogle先生に聞いてみると、いろいろ資料が見つかりました。

Tangibles
 1. Excellent XXX will have modern looking equipment.
 2. The physical facilities at XXX will be visually appealing.
 3. Personnel at excellent XXX will be neat in appearance.
 4. Materials associated with the service (such as pamphlets or statements) will be visually appealing in an excellent XXX.

Reliability
 5. When excellent XXX promise to do something by a certain time they will do so.
 6. When a customer has a problem, excellent XXX will show a sincere interest in solving it.
 7. Excellent XXX will get things right the first time.
 8. Excellent XXX will provide their services at the time they promise to do so.
 9. Excellent XXX will insist on error-free records.

Responsiveness
 10. Personnel in excellent XXX will tell customers exactly when services will be performed.
 11. Personnel in excellent XXX will give prompt service to customers.
 12. Personnel in excellent XXX will always be willing to help customers.
 13. Personnel in excellent XXX will never be too busy to respond to customers’ requests.

Assurance
 14. The behavior of personnel in excellent XXX will instill confidence customers.
 15. Customers of excellent XXX will feel safe in their dealings with the XXX.
 16. Personnel in excellent XXX will be consistently courteous with customers.
 17. Personnel in excellent XXX will have the knowledge to answer customers’ questions.

Empathy
 18. Excellent XXX will give customers individual attention.
 19. Excellent XXX will have operating hours convenient to all their customers.
 20. Excellent XXX will have staff who give customers personal attention.
 21. Excellent XXX will have the customers’ best interests at heart.
 22. The personnel of excellent XXX will understand the specific needs of their customers.

上記は期待するサービスについての質問項目(Expectation questionnaire)で、これとほぼ同じ質問文で同じく22問、実際のサービスについての質問項目(Perception questionnaire)があります。
回答者はその両方に回答し、各問題についてのPerception scoreとExpectation scoreの差がGap scoreになります。
でたGap scoreは次元ごとに平均値を求め、さらにすべての次元のGap score平均値の平均がサービスの質のスコアとなるようです。
参照:
ServQual Forms (San Jose State University)
 wordファイル
Assessing Customer Satisfaction of Shahjalal Islami Bank Limited (Md. Azim Ferdous, BBA Program thesis, 2009)
 データも載っていて参考にしやすい

この質問紙は一般的な企業だけではなく、病院や図書館等様々な分野での応用に使われており、場合に応じてPersonnelはEmpliyeesにしたり、customerはpatientに変更して利用可能。

どのようにしてこの22項目が選ばれたのかについては原著がネットにありました。、
SERVQUAL: A multipule-item scale for measuring consumer perceptions of service quality. Journal if Retailing, 64(1):12-40,1988

88年に作られた質問紙なので、現代のサービスの質を明らかにするには新しい項目が必要なのかどうか、そういった研究がなされているのか、本章では特に言及はありませんでしたが少し気になります。

■Provider Gap
次はプロバイダーギャップについて。
文章だけではややこしいので掲載されていた図をもとに作図しました。

20120802-3

太い両矢印がギャップ、細い矢印がサービス生産・提供の流れ。

Provider Gap 1: The Listening Gap
顧客の期待・要望を捉えられていない
⇒解決策
・オンライン調査
・CRM (Customer Relationship Management):一貫した顧客データベースを作成し、長期的に適切なサービスを提供し顧客との関係を強化

Provider Gap 2: The Design and Standards Gap
期待されているサービスに対してデザイン・仕様が適切ではない
⇒解決策
・Service R&D

Provider Gap 3: The Service Performance Gap
サービスの仕様が適切に実現できていない
⇒解決策
・社内の人的リソース戦略の検討
・情報技術による業務支援
・顧客とサービスを協働開発

Provider Gap 4: The Communication Gap
思った通りに外部にサービスが伝わっていない、理解されていない
⇒解決策
・サービス提供時のリアルタイム対面コミュニケーション
・有形シンボル、広告の利用
・ダイナミックプライシング
・ブログ、メール配信
・Peer-to-peerコミュニケーション

–ココマデ—–
これらのギャップに関する情報を膨大な顧客データの収集・分析から明らかにし、あらたなサービスを生み出す、というのがいわゆる「ビッグデータ」に基づくサービスサイエンス、ということなのでしょう。
本書ではビッグデータ系についての章がなかったので、その点の動向や基礎については分かりませんでしたが、そもそものサービスについて勉強することができました(意外とサービスとは何か、についての基礎の基礎を論じた章はないのですが)。

■サービスサイエンスと科学技術コミュニケーション
さて、本書を読む上での私の一つの観点は、科学技術コミュニケーションへの援用可能性です。
上記の質問紙は背景の理論を十分に理解すれば、方法としてはすぐにでも使えそうです。では、もう少し大きい枠組みとしてはどうか?

ギャップモデルなどの評価系の研究開発はそれ1つで大きな仕事です。こういった仕事はある程度体力のある企業や中央行政には可能でしょうが、そうでないところにとっては公開された簡易手法がないと厳しいでしょう。
特にビッグデータを用いたサービスサイエンスにおいて、企業が保持する大量の部外秘の顧客データとそこから得られた手法は極めて貴重で無償で提供されるものではなく、だからこそ商売になりうるわけです(「サービスサイエンス」もIBMがつくった言葉)。

まずこれは「(古典的な意味での)サイエンス」という知識生産と馴染むのか?という疑問がまずあります。
この点はビッグサイエンスや、国防に関する研究などと類似性は大きいでしょう。また、これらの分野は大学単独がやっていても太刀打ちできないので、企業や企業との共同研究に任せておいてよいわけで、大学の研究あるいは国のサービスサイエンス助成研究はどちらの方向を向くべきか、という問題があります。
ということでサービスサイエンスそのものがSTS、科学技術コミュニケーション研究の対象になりえるかと思います。

もう一つの疑問としては、第一の疑問ともつながりますが、現状の大多数の科学技術コミュニケーションの実際的主体の小規模さ、非営利性、目的の不明瞭さ・長期性、コミュニケーション相手との関係性の薄さ・多様さを考えると、サービスサイエンスを援用するには足りない部分も多いのではないか、という点です。
もちろん私はまったくの不勉強なので、経営学のなかには上記のような特徴をもつ非営利組織に関する研究は多く蓄積しているでしょう。ここは勉強しなければなりません。
しかしこういった分野は放っておいても「サービスサイエンス」になるドライブはかかりにくいように漠然と思いました。
もちろん外部的で分かりやすいドライブ要因が小さいからこそ、研究の意義はあるのかもしれませんが。

ともあれ、今回のゼミは田町キャンパスだったので、その後品川のお店に移動して打ち上げ。

20120802-4

眺めも時間も含め、いいかんじのサービスでした。