Handbook of Service Science (Service Science: Research and Innovations in the Service Economy) (2010/05/04) Carl J. Schramm、 他 |
木ゼミ輪読会第6弾 “Handbook of Service Science”
RISTEXがサービスサイエンスの研究領域を立ち上げたり、最近日本でも勃興しつつあるサービスサイエンス。
「サービス」を「コミュニケーション」にざっくり変換してみると、科学技術コミュニケーションを考える上での大きなヒントと研究手法が得られる。そんなことを期待して、私は二つの章を担当しました。
●Part1-5: Service Worlds:
The “Service Duality” and the Rise of the “Manuservice” Economy (pp.79-104)
J.R. Bryson & P.W. Daniels
本論文は”Service World: people, organization, technology” (J.R. Bryson et al., 2004)で論じた製造とサービスの複雑な関係性について、さらに論じた章。
“Duality”(二重性)という言葉に引かれて選びました(想像していた意味とは違いましたが…)
■ManufacturingからService、そしてManuservicesへ
90年代ごろから、多くの製造企業で生産コストの70-80%がサービス機能に関係していたり、いくつかの国では製造業労働者の50%以上がサービス関連の職種につく状況が生じてきました (Pilat&Wolfi, 2005)。
Brysonらはこのような社会を“Service Worlds”と呼び、サービス活動が生産過程において不可欠な重要性を持つ社会であると定義しています(Service world, 2003)。別の言葉では“service-led economies”“post-industrial societies”とも。
そして、製造業とサービス業を二分法で捉えるのではなく、新たな”manuservice”という概念へ発展させることが必要と主張しています。
Giarini(1997, 2002)による5つのサービス分類でも、製造プロセスの後だけではなく、全ての過程でサービスが関与している分類となっています。
1. 製造前(資金調達、研究)
2. 製造中(資金、品質管理、安全)
3. 販売(ロジスティクス、流通網)
4. 製品・システムの利用中(メンテナンス、リース、保険、販売後サービス、修理)
5. 製品・システムの利用後(リサイクル、廃棄物マネジメント)
一方で下記各国の経済指標などで使われている職種分類では、未だに「サービス」を正しく捉えていないと指摘。
・EU: NACE code74 Other business activities
・英国: Standard Industrial Classification of Economic Activity (SIC)
SIC8395: “other business services not elsewhere specified”
・米国: North American Industry Classification System (NAICS)
ちなみにNAICSでのサービス業の実例は、
マネージメントコンサルタント・市場調査・PRコンサルタント・職業紹介、セキュリティサービス、債務回収、フリージャーナリスト、翻訳家などなど。
これらの業種につく人口は1981年の15万6千人から1987年には31万6千人になったとしています。
■Serviced Duality サービスの二重性
BrysonらはManuserviceを非常に多くのサービス要素が組み込まれた製造業であるとも定義し、その起源を三つに分類しています。
まず1つめは、ソフトウェアの生産・販売から始まり、ハードウェアの生産を行うようになった会社
二つめは、工作機械の生産から始まり、顧客のために製品の導入を行うようになった会社
最後は、デザイン製品の生産に特化した会社
これらのManuservice企業は、サービスによって顧客や市場との長期間の強い関係が作り出され、その結果生まれたとしています。
そして、生産に関するサービスと製品に関するサービスの二元性をサービスはもつ、とするService Dualityという概念には、Innovation Value Chain (IVC) の影響があると指摘しています。
イノベーションバリューチェーンとは、Knowledge investment、Innovation process capacity、Value chain capabilityの観点で、事業の構成と流れを分析する方法。
さらにBrysonらはゴフマンの“Roles” (Goffman, 1984)でサービスを整理し始めます(だんだんわからんくなてきた…)。
・Front region: パフォーマーとオーディエンスがいる場…対面サービス
・Back region: パフォーマーのみがいる場…計画、デザイン、配達
曰く、古い製造業はbackが消費者に見えなかったが、CSRやTV・ネットなどメディアの発達などの影響でFrontとbackが融合し、両面が顧客に見えるようになった。とのこと。
■Service Duality 研究
Innovation value chainというフレームワークと同じく、Service Dualityにおいても1つの会社が一つのサービスを構成しているわけではないため、サービス生産の背後にある関連会社やインフラを考慮して分析する必要がある。
章の最後には、量的研究と質的研究の両方の手法がごく簡単に紹介されています。
1.Input-output table(投入産出表・産業連関表)
生産のための資源投入と生産された製品とサービスのパターンから、システムの中に含まれる複数の機能と関係を分析
2.Occupational data
職業人口に関する量的なデータと分析。雇用構造の変化、製造業におけるサービス活動を知ることができる
例)British Labor Force Survey
3.Micro-level data
個別の事例に関する質的な研究。費用がかかるが、顧客会社の活動への影響と、製品関連サービスの創造と流通の理解に必要
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■科学技術コミュニケーション研究への援用
本章で述べられていることは、特に経済学・経営学との大きな違いは感じられず、これがサービスサイエンスなのかと考えると若干疑問ではありましたが、現代におけるサービスとはどういうものなのかについて論じているため、基礎を押さえる上では勉強になりました。
Manuserviceの概念は、ギボンズのモード論とも近いものを感じます。
さて、本章を読んで考えたのは、科学技術コミュニケーション、あるいは科学技術コミュニケーションを含む科学をservice science、Manuserviceの概念で整理できるか?ということです。
つまり製造≒専門家による知識生産、サービス≒科学技術コミュニケーション。
ではManuserviceは?
むしろ古いサービス(販売的サービスなど狭義のサービス)が科学教育や科学報道(ジャーナリズムではない)に相当し、Manuserviceこそが科学技術コミュニケーションかもしれません。
とは言え、科学技術コミュニケーションは本来科学のあらゆるプロセスに関係するものですが、現在の(特に日本の)科学技術コミュニケーションはManuserviceのもつDualityは未だ備えていないようにも思えます。
製品(作られた科学知識)に関する科学技術コミュニケーションと、生産(作成過程にある科学のガバナンス)に関する科学技術コミュニケーション(ここらへんラトゥールに引っ張られている)。
製造業とサービス業の融合の歴史的経緯を踏まえると、科学的知識の生産においては、未だその時期が来ていないのかどうなのか? それはなぜか?
それを解明する一つの鍵は、Manuserviceが生まれた原因であるとする顧客との長期的な関係性の強さにあるのかもしれません。科学および科学技術コミュニケーションにおいては顧客との関係性が明確化しない(選択圧が低い)故に、Manuserviceが未だ分化していない…などと考え、本章で紹介されている概念や先行研究は、科学技術コミュニケーション研究の一つの切り口になるように思えました。
さて、長くなったのでもう一章は別のエントリにて。