なんとやら#47 なんとやらなんとやら

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汲々相励みて荒野を拓き 矻々相勉めて沃土を作る

蚯蚓禮讃「みみず」畑井(1931)

“蚯蚓禮讃

自ら進んで釣魚の餌たるを辞せざるも
虚名を干支に列ぬるの累を避く
「鈍くしておかしげなる」との世評に甘んじ
悠々自適 泥土を食ひ黄泉を飲み
敢て利欲を地表に求めず
汲々相励みて荒野を拓き
矻々相勉めて沃土を作る

其躯は蓋し研学の材たるべく
其屍は猶ほ霊薬の素たるべし
然れば蔡邕の知遇を得て勸学の篇に入り
透谷の詩眼に映じて跟影を紙帛に止む

祖先世に現はれて既に幾億歳
巨像の蹄を逃れ氷河の流れを避く
時に地殻の激震に厄せられ
血縁離散の悲しみに遇ふも
慈雨の降下に恵まれて繁栄の喜びを受く

年を送り歳を迎へて眷族益々蕃く
争はず犯さず 倶に天分を楽しみ共に苦楽を味ふ
是れ蚯蚓の偉とする所なり
世の懶婪憤怒の人
亦以て鑑とするに足らん乎

畑井新喜司『みみず』(1931年)”