ワークショップワークショップ

3連休ですが、初日は日本工学教育協会のワークショップを開催しました。
「コミュニケーションスキル」を、どのように教育するかを情報提供をもとに考えるという趣旨です。

初めは海洋大のO島先生による、ピアラーニングによる日本語文章教育プログラムのご紹介。
文章構造の理解と作成、文章のテーマ設定などをピアラーニングで行う。細部まで非常に考えて構築されていました。
日本語ライティング能力はコミュニケーションスキルの基礎ですし、テーマ設定によってさらに科学技術コミュニケーション教育にあわせたものにできそうです。

次は不肖、私が発表。
現在の科学技術と社会の関係から、求められている科学技術コミュニケーション教育と、いろいろな高等教育機関での実践についてざっくり整理することで、各自の実践を振り返るという内容です。

ポイントは、以下の3点
・求められるコミュニケーションの範囲は拡大している
・科学知識だけではなく、価値、信頼など社会的側面も重視する必要がある
・学習/教育には多様な方法があり、実践と一体化している

どう整理するかは考え始めると百家争鳴になってしまうので、英国 Office of Science and TechnologyとWellcome Trustによる2000年の報告書「Science and Public」にある図を参考にしました。
・横 コミュニケーションの対象
・縦 科学知識←→政策(科学的判断±α)
・シンボル 教育・実践方法(講義・PjBL・PBL・インターンシップ)

20110211-1

例えば東工大の「科学技術コミュニケーションと教育」では、
・理工系大学院生と小学校の先生とのコミュニケーションを通して、先生方が児童に対して使う、
・指導要領に沿った形での理科指導補助案を、
・PBL (Problem-Based Learning:問題解決に基づく学習) として作成していく
という整理です。
上の写真では真ん中の下の方に位置しています。
というようにいろいろな教育・実践をプロットしていくわけです。

ざっくり整理してみると縦軸周辺の上半分あたりが空白でした。
管見の限りですが、大学などが行っている科学技術コミュニケーション実践では、子供向けの科学技術倫理・政策に関する学習と連携するような取り組みはあまり盛んではないのかもしれません。

工学系におけるコミュニケーション教育としては、グループ作業で限られた材料で特定の条件をクリアするモノづくり(例えばエッグドロップコンテストロボコンなどもその範疇でしょう)が挙げられます。

これはもちろんとてもよいプログラムですが、上記の整理に照らしてみると、
・グループ作業の仲間は基本的に同質的で、成果物の使用先は明確ではないか存在しない
 →上記図で見ると横の広がりがない
・工学的(科学的)なスキルの習得が主で、社会的なスキルや社会的な議論については明示されない
 →同様に下半分に集中して分布
といった点も見えてきます。
(もちろん従来のものづくり教育を否定しているわけではないです。念のため・・・)

誰が、何のために求めていることに対する活動なのか、ということを意識しつつ、科学技術スキルと基礎コミュニケーションスキルの習得が可能な枠組みが、コミュニケーション教育では求められるのではないかと思います。
ワークショップの参加者の方からのご意見でしたが、その意味で面白いのは、ロボコンはエンターテインメントとしての価値が増大し、理工系学生や企業内だけではない、様々な人とのコミュニケーションも生まれているということです。
このようなエンターテインメント・興味喚起・基礎教育へ指向したコミュニケーション教育・実践と共に、サイエンスショップのような実際にある課題の解決を指向した取り組みもあるでしょう。

話は一般論に広がりますが、工学系の教育では、言葉は違いますが上記のようなモノづくりを通したコミュニケーション教育をこれまでも行ってきました。
工学・実学という意味では医療系におけるコミュニケーション教育も同様です。
しかし医療系ではOSCE (Objective Structured Clinical Examination: 客観的臨床能力試験)に代表されるように、極めて実践的で対象と到達目標が明確な教育プログラム(評価方法)が確立されているのに対し、工学系では出遅れているように思えます。

もちろん医療系教育と比較した場合に見られる工学系教育の遅れは、ユーザーと直に対面するとは限らないエンジニアなどに対する工学教育にとっては、これはある意味当然なことではあります。

しかし近年のいわゆる「科学技術コミュニケーション」の流れ(役所的には文科省、学問分野的には理学系、科学史、科学教育)が、工学教育分野に充分流入していないような印象もあります。

科学技術コミュニケーションはディシプリン間のキャズムを超えられるのか?
科学イベントなどが、いわゆる科学好きな人々にしか訴求できていない、という「参加者の課題」を解決する前に、科学技術コミュニケーションの一次的担い手の間の溝を埋めることが重要な気がしてきました。