洞爺湖有珠山ゼミ合宿2024 報告

9月の17日から19日にかけて、科学技術コミュニケーション研究室のメンバー(川本・M2佐々木・M1予定植田・OB成田)と、教育デザイン研究室の岩間徳兼先生、石川奈保子先生とでゼミ合宿を実施しました。教育デザイン研究室の趙由之さんも参加予定でしたが、残念ながら急用により参加できなくなってしまいました。場所は去年と同じ洞爺湖です(去年の記録はこちら)。

以下では、今回の合宿の活動報告をしていきます。【執筆:植田康太郎】

洞爺湖有珠山と科学技術コミュニケーション

洞爺湖周辺は、「洞爺湖有珠山ジオパーク」としてUNESCOから認定を受けています。有珠山は現在でも活発に活動している火山です。最近でも、2000年に噴火がありました。有珠山は20〜50年周期で噴火を繰り返しており、噴火による被害が絶えない地域です。しかし、その一方で、洞爺湖独自の生態系が形成されていたり、温泉や絶景などが楽しめたりする観光名所でもあります。

また、「洞爺湖有珠山ジオパーク」は私たち科学技術コミュニケーション研究室と深い関係があります。2023年度卒業生の荒木藍さんが、洞爺湖有珠山ジオパークでの火山マイスターの活動事例のフィールド調査を中心として、日本全体のジオパークガイドの調査も修論で取り組みました(修論の一部はこちらから閲覧可能です)。

火山マイスターとは、火山と共存していく洞爺湖の町において、火山を正しく理解し、これまでの火山の被害を風化させないための活動を推進する制度です。荒木さんはこの火山マイスターの方々との交流を通じて、修士研究を進めてきました。「天災は忘れた頃に来る」。これは、日本の物理学者であり、随筆家、俳人としても名を残した寺田寅彦による言葉です。寅彦の言葉にもあるとおり、私たちはどうしても過去の出来事を忘れてしまいがちです。火山マイスターのような活動が末永く続いていくことを願います。

1日目

洞爺湖ビジターセンター・火山科学館

昼頃に洞爺湖に到着した科学技術コミュニケーション研究室のメンバーは、まず洞爺湖ビジターセンター火山科学館を見学しました。

洞爺湖ビジターセンターでは、洞爺湖周辺の自然や動植物などの展示が実施されていました。

洞爺湖ではウサギやキツネ、エゾシカなどたくさんの動物が観察できます。センターではこのような動物の模型や樹木を触り比べられる展示などが設置してありました。特に、エゾシカは本州に生息するホンシュウジカよりも体長が大きいということが、奈良育ちの私としては印象的でした。

火山科学館では、有珠山のこれまでの噴火の歴史が紹介されていました。とくに、1977年、2000年の噴火について疑似体験できるような展示となっています。

シアター有珠山では、さまざまな角度で設置された3面スクリーンによって、2000年の噴火当時の映像が放送されています。映像は3面スクリーンであり、また、ウーファーもかなり大きなものを採用しており迫力がありました。噴火の映像が出るたびにウーファーによる空気の揺れが身体にも伝わり、当時の噴火の様子を再現するのに一役買っていました。

 

他にも有珠山の火山活動を伝える展示として、当時の噴火で損壊した車両や噴石の実物資料、災害時の避難所の状況などが説明されていました。

洞爺湖ビジターセンター・火山科学館での活動は、科学コミュニケーションの事例としても考えられます。このように、有珠山の被害や洞爺湖の生態系を訪問者に適切に伝える展示は科学コミュニケーションの事例として参考になりました。

金比羅火口災害遺構散策路

散策路のスタート地点、砂防ダム上からの眺め。2000年噴火の遺稿が残っている。

洞爺湖ビジターセンター・火山科学館のあとは、14時頃に合流した岩間先生一家と金比羅火口災害遺構散策路を歩きました。

この散策路は、2000年の有珠山噴火時の遺構を見ながら火口まで進む道です。公衆浴場や公営住宅、土石流で流された橋などを見られます。これらの遺構を見ることで、火山による土石流がいかに甚大な被害を引き起こしうるかが体感できます。

2000年の噴火によって、金比羅山には2つの噴火口ができました。活動のおさまった現在は、火口湖ができています。最終地点では火口湖を見下ろすような光景が見られました。

通称「珠ちゃん火口」
全員で登りきって火口で記念撮影
下山したところで石川先生一家と合流

 

ジンパ

金比羅火口を見たあとは、石川先生一家とも合流し、1日目の最終イベントであるジンパが実施されました。昼に購入していた野菜やラム肉、ソーセージなどを各自思い思いに焼き、食べていきます。最後にはデザートとして焼きマシュマロを作りましたが好評でした。

この日は中秋の名月

私自身、半年前に札幌に引っ越してきましたが、当初は札幌の方々がことあるごとにジンパをしていることに衝撃を受けていました。最近では、札幌の生活にも慣れ、ジンパにも慣れてきました。

洞爺湖花火大会を見る一行

 

2日目

輪読ゼミ『インタープリテーション』

2日目は、合宿メンバーで サム・H・ハム著『インタープリテーション—意図的に「違い」を生み出すガイドのためのコミュニケーション術—』(山田菜緒子訳)の輪読会が行われました。

インタープリテーションとは、本書では以下のように定義されています。

「参加者が自分にとっての意味を見つけて、もの、場所、人々、概念と自分にとってのつながりを目的とした、ミッションに基づいたコミュニケーション手法」

このインタープリテーションの技術は、ツアーガイド、学芸員、資料館のスタッフなど幅広い業務の人々が、訪問者に対して適切なコミュニケーションをとるために必要です。

このインタープリテーションは、科学コミュニケーションの分野でも活用できると考え、今回の輪読会で選ばれました。

本書では、インタープリテーションで重要な要素を4つ定義し「TOREモデル」として推奨しています。

● T(Thematic):テーマがあること
● O(Organized):整理されていること
● R(Relevant):関連あること
● E(Enjoyable):楽しめること

とくに、T(テーマがあること)を最も重要視しており、本文中でも適切なテーマ設定についてたびたび言及されています。

テーマとは、「結局この話で何を伝えたいのか」という問題に対する回答となるようなものがふさわしいです。例えば、テーマを「物理学」と設定するのは不適切です。このままでは、「物理学の何を説明するのか」「どのような展開で話を進めるのか」「話のオチをどうするか」などを設定できません。この場合、「救急車のサイレンの音の高さが違って聞こえたり、冬に静電気が発生したりするように、物理学は私たちの身近にあるような現象を説明してくれるものである」とテーマを決めることで、どのような話をするかが明確になります。

そもそも良いインタープリテーションとはなんでしょうか。本書では、インタープリテーションを受ける前後で聴講者の内面に変化を与える結果が生じた場合、そのインタープリテーションは成功したといえるとしています。よいインタープリテーションを受けた聴講者は、環境問題に関心が生まれたり、過去に起こった悲惨な歴史を忘れないようにしたりします。このように、聴講者に何かしらの影響を与えられるのが、良いインタープリテーションです。

今回の輪読会では、6名が1章ずつを担当し、1章から6章まで読みました。良いインタープリテーションに必要な要素や、適切なテーマ設定などは、科学コミュニケーションにおいても活用できる部分がありました。また、岩間先生や石川先生、川本先生らの自らの研究と関連した意見も参考になりました。

 

映画『トランセンデンス』鑑賞会

温泉と夕食を済ませた後、2日目の最後のイベントは映画鑑賞会です。今回は、『トランセンデンス』(2014)を科学技術コミュニケーション研究室メンバーと岩間先生で鑑賞しました。

この映画は、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズなどで有名なジョニー・デップが主演、『オッペンハイマー』(2023)や『TENET テネット』(2020)の監督でもあるクリストファー・ノーランが製作総指揮として関わり、ウォーリー・フィスター監督のもとで制作された映画です。

映画はまず、AI研究者ウィル(ジョニー・デップ)が反テクノロジー過激派組織の反乱によって命を落とすところから始まります。ウィルを救う方法を模索していた妻のエヴリン(レベッカ・ホール)は最終的に、ウィルの親友であるマックス(ポール・ベタニー)とウィルの意識をAIにアップロードすることにしました。

ウィルの意識をAIにアップロードしたあとの生活はエヴリンにとって夢のような素晴らしい生活でしたが、少しずつウィルは人間には予測不可能な進化を遂げていきます。

『トランセンデンス』は意識のアップロードの問題やAIの暴走などがテーマとなっており、科学技術社会論(STS)を考えるうえでも参考になる映画でした。

これまでも『ターミネーター』を筆頭に、AIの暴走を描いた映画はたくさん制作されてきました。今回の『トランセンデンス』では、AIの暴走の映画でよくある、AIと人間のアクションシーンが描かれるものではなく、あくまで人間同士の関係を描いたSF映画です。

視聴後は、全員で意見を交換しあい、とても刺激的な時間となりました。

私自身、意識のアップロードは最終的には可能であると思っていますが、まだまだ先の出来事でしょう。また、人間の意識をアップロードした結果、AIの暴走が実際に起こるかどうかわからないと思いました。

3日目

成田吉希さんの研究発表

合宿最終日はまず、成田吉希さんの発表から始まりました。成田さんは、CoSTEP19期研修科で昨年度ゼミ生でもあります。現在は、仕事と研究の二足のわらじで活動を行っています。

太平洋島嶼国には、現在でも太平洋戦争時の戦争残留物や戦跡が多く残されています。このような残留物や戦績は、STSの観点からも重要であるにもかかわらず、保全に関する活動がなかなか進んでいないのが現状です。成田さんは、このような問題をどのように解決し、未来に継承していけるかを考えています。

現在は、2024年11月に開催される科学技術社会論学会での発表を目指して、研究成果をまとめている状況です。

成田さんからの発表のあとは、参加者からコメント、質問が続き有意義な時間となりました。

成田さんの最近の研究は以下にまとめられています。
Narita, Y., & Abe, M. (2024). Revisiting Nuclear Legacy in Marshall Islands: The Implications of Transitional Justice and Trans-science. In Sustainable Development Across Pacific Islands: Lessons, Challenges, and Ways Forward (pp. 281-312). Singapore: Springer Nature Singapore.

成田さんの発表のあと、お昼前に石川先生一家、岩間先生一家とはお分かれ。そのまえに全員で記念撮影(電線は消しゴムマジックで消去しています。あしからず)

昭和新山・1977年火山遺構公園・旧とうやこ幼稚園

成田さんの発表のあと、お昼前に石川先生一家、岩間先生一家とは分かれ、科学技術コミュニケーション研究室のメンバーで、火山にまつわる名所を巡りました。

昭和新山は、昭和18年の噴火活動で麦畑が隆起してできました。4ヶ月火山の爆発が続き、その間刻々と大地が隆起した結果、398mの火山が出現しました。

去年とほぼ同じ構図で記念撮影(去年の写真はこちら

1977年火山遺構公園では、1977年から1982年にかけての有珠山の火山活動によって倒壊した病院施設がそのままの状態で残されています。火山活動によって、病院付近の断層帯がずれ、次々と建物が倒れていったそうです。

旧とうやこ幼稚園にも足を運びました。こちらは、2000年の有珠山噴火の被害がいかに大きなものであったかを残しています。

クリアカヌーツアー

合宿の最後には、洞爺湖北岸にある財田キャンプ場付近でのクリアカヌーツアーに参加しました。クリアカヌーとは、全身が透明のカヌーで、水中の観察がしやすくなっています。

今の時期は、クロモなどの水草が水中にびっしりと生えており、きれいに観察できました。

洞爺湖では、ワカサギやニジマスなどの魚類やスジエビのような水中生物が生息しています。カヌーツアーでは、このような生き物たちの観察もできます。とくに、スジエビは簡単に捕まえることができました。


以上、ゼミ合宿のレポートでした。10月からは後期の授業も始まります。また、気持ちを切り替えて日々の授業、研究に邁進していきます。

最後に、昨年度に引き続き宿泊場所をご提供いただいた川南様のご厚意に感謝いたします。

 

おまけ:宿に設置されているトランポリンで宙返りをする体操部の佐々木さん