EUPVSEC(その三

学会三日目。いよいよポスター発表の日。
ちなみにEUPVSECのすべての発表は以下6つのセクションに分かれています。

1. Advanced Photovoltaics: New concepts and ultra-high efficiency
2. Wafer-based silicon solar cells and materials technology
3. Thin film solar cells
4. Components for PV systems
5. PV systems
6. PV taking off: large-scale deployment

この6つ目のセクションが経済・社会科学系で、さらに”Markets for Large-Scale PV” “Large Scale Grid Integration and Smart Grids” “Socio Economics of PV” “PV Programmes and Policies”の4つのサブセクションがあります。
私は”PV programmes and policies”で発表しました。

周りを見渡したところ、多くはコンサルなどによる設置における意思決定や経済性、あるいは太陽電池研究の教育機関に関する発表でした。

かく言う私は、質問紙調査とアクションリサーチによるPVオーナーの関心・態度・社会活動性の分析といったもの。

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■背景
・市がPV導入を積極的に進める静岡県掛川市がフィールド
・日射量は13MJ/m2・dayで日本の中でも条件は良い
・掛川市は生涯学習運動が盛んで、環境意識も高い。また浜岡原発も近く、エネルギー問題に関しても関心が高い
・2009年における積算導入量は1101件(2.7%)であり、静岡県全体と比較すると約2倍の導入率
・補助金による導入促進には限界があり、生涯学習・市民参加の観点からも市民による導入促進活動が必要
・すでに導入しているPVオーナーの関心と懸念を把握し、活動の指針・評価とする

■方法
・PVオーナー約100名(グリーン電力証書事業参加者)を対象に質問紙調査を実施(2009年11月)
・項目は自分のPVに対する知識、PV導入の動機・懸念、科学技術と社会一般に対する意識、地域における社会活動等
・PVの故障を自己診断できるウェブシステムを開発し、上記オーナーに利用を薦める
・システムの説明およびPV故障などに関する対面イベントを設計し、上記オーナーを対象に告知・実施
・質問紙の回答、対面イベントの参加の有無、ウェブシステムの利用率をあわせて分析し、知識・関心と懸念・実際の活動性を把握

■結果
→PVオーナーには50-60代男性の「科学好き」が多い
→対面イベントand/orウェブ参加者は、何にも参加していない非参加者と比較して、自分のPVの詳細な情報もよく知っている
→対面イベントand/orウェブ参加者は、PV導入の理由と懸念について、技術的理由を挙げる傾向がある(経済的利点は全員が理由として挙げる)
→ウェブのみの参加者は特に明確なPV導入理由と懸念を持たない傾向がある
→非参加者はさらにその傾向があり、PVは故障しないと思っている傾向がある
→初期(2004年以前)にPVを導入したグループは、それ以降のグループと比較して、対面イベントand/orウェブ参加者が多い

■考察
⇒PVオーナー、特に初期の導入者はいわゆるイノベーター的性格を持ち、PVに対する技術的関心が高く、イベントなど社会的活動も活発に行っている
⇒ウェブシステムは関心懸念があまり明確化していない人に対しても訴求し、ある程度の窓口として機能したと思われる
⇒「故障」「ウェブシステム」は初期のPVオーナーに対しては共有可能なアジェンダ・チャンネルになりえるが、故障のリスクはあまり認知されておらず、「故障はしない」と思っている約半数の人には十分に訴求できない

●今後導入する人はさらに関心・懸念が拡散すると考えられる。経済的利点(節電による節約・売電収入)は共通の関心になると思われるが、一方でPVを導入できるのは経済的に余裕のある人だけであり、導入者のみが利益を得て、それ以外の人がその負担を負うという図式になりかねない。
●初期PVオーナーをリーダーに導入・故障時サポート活動を行うにあたっては共通のアジェンダを構築する必要がある。PV導入を市民の共有価値とするそれは何か?一つの可能性は災害対策、エネルギー大転換か?

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診断システムの自治体・市民による運営という点に興味をもっていただけました。
PVオーナーの年齢構成(50ー60代が多い)を示したグラフがあったのですが、それをみたスウェーデン?の方が「若い人の方が新しい技術に興味持ちそうなのに意外」と言われたので「日本人で戸建ての家を持てる人が少ないだけです。」と答えたら「オーゥ」と言われた。ぐぬぬ。

経済でも政策でもコンサル業者でもないこういった研究はこの学会ではあまり見かけませんでしたが、それなりに関心は持って頂けたようです。
この研究は市民活動デザインのための社会調査研究であり、その評価のための分析研究であり、エネルギー変換機における新技術のイノベーション普及研究という複数の正確をもっています。
課題は、直接的には一般市民の意識がわかっていないこと。具体的に市民活動を継続するための組織をつくること。3.11以降の変化に対応することなどなど・・・

午後のセッションでは東工大の小長井誠先生が日本の研究開発について講演。
東工大の新図書館も紹介していました。

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ドイツやイタリアに積算導入量が抜かれたとはいえ、まだHITや薄膜をはじめ研究開発では日本は世界の先端を切っています。

この講演に参加した後、会場を後にしました。
9日に札幌での日工協年次大会が控えているために、会期はまだ2日ありますがここで私のEUPVSECは終了。
PV研究の勢いを肌で感じるという大変良い経験ができました。
はやく論文にしあげなくては。