倫理とコミュニケーション

日本工学教育協会の年次大会に参加するため、ドイツから帰国した翌日に札幌へ。

20110910-1

技術者倫理ワーキングループとコミュニケーションワーキンググループが合同で『技術者倫理とコミュニケーション-「ギルベイン・ゴールドケース」から考える』と題したセッションを開催しました。
座長は不肖私。話題提供は下記の皆様。

・技術者倫理教育で仮想事例をどのように使うか-仮想事例「ギルベインゴールド」を例にして(札野順 金工大)
・技術者倫理教育におけるリスクとゴールの考え方―産学連携教育におけるリスクの不一致(堀田源治 有明高専)
・りすくをめぐって対立する当事者間のコミュニケーション―「ギルベインゴールド」のケースを使って考える(三上直之 北大)
・ギルベインゴールドケースにおけるリスクコミュニケーションと技術者倫理(西條美紀 東工大)

工学教育において、技術者倫理教育は以前から取り組まれています。
コミュニケーション教育については、読み書きプレゼンといったスキル教育が重視されてきた傾向があり、より実際的、社会的な文脈における理解力・解決力としてのコミュニケーションについては立ち遅れているのではないかと思われます。
一方で、両者には技術的問題だけではなく、組織・社会の多様な文脈を含めて、専門家の社会的責任として様々な要素を統合して解決をめざすという目的がある点で共通点も多くあります。

そこで両者が合同で、一つのテーマについて技術者倫理とコミュニケーションの観点で情報提供を行い、ディスカッションしました。
題材は「ギルベイン・ゴールドケース」です。
これはアメリカ技術者協会が技術者教育のために作製した映像作品です。

詳細は上記リンク先にゆずりますが、これ以降も作製されたいろいろな教育用映像作品とくらべても、よくまとめられています。
話の背景や概要をテレビのレポーターが番組として語り、その間に実際のやり取りが挿入されるという構成のため、状況説明などが違和感なく挿入されていて、なかなかうまいつくりになっています。

さておき、この「ケース」を題材に、4名の話題提供者がそれぞれ発表した後、技術者倫理とコミュニケーションの観点でどのような問題点があり、どのような解決の考え方があるかをディスカッションしました。

・対策をとるべきかどうかという対立になり、どうすべきかを議論することを避ける
・場当たり的なコンサルタントの利用
・部下に丸投げ
などのコミュニケーションの稚拙さがあり、倫理の問題ではあるが、コミュニケーションのデザインが全くされていない、異なる文脈を持つ者同士の共通の論点を構築するところから始める必要があるといった議論が三上先生、西條先生からありました。

翌日はコミュニケーションスキル教育のセッションを覗きました。
ライティングやスピーチ学習などが具体的に報告されており非常に参考になりました。
しかし、今日的な科学技術コミュニケーション、STS的観点は欠けているという印象も。
どちらかというと倫理系の方々とのほうが問題意識は近いように思えます。

JABEEをはじめとして工学教育においてコミュニケーション能力は重視されています。
しかし、科学コミュニケーション系の人がほとんど参入していません(管見の限り)。
科学コミュニケーションが主に理学系出身者からなることが原因の一つなのでしょうか。

科学技術コミュニケーションが展開すべきフィールドは工学系にまだまだ広がっていると思われます。