DP見学記(その2:本番

5日、討論イベント「みんなで話そう、食の安全・安心~BSE全頭検査をどうするか~」本番の日。
貴重な休日にもかかわらず9時半から18時半までの長丁場です。

会場は北海道大学の旧教養棟。大々的に看板が出されるわけでもなく、地味な感じ。

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しかし中に入るとスタッフの方が多数いらっしゃいました。

受付で見学事前申し込みのリストを確認していただいて、資料一式を頂きます。

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BSEに関してまとめた冊子、今日回答するアンケート一式など討論参加者と同じです。

■開会式-グループ討議へ
まずは9時半から大講堂での開会式。
科学技術に関する本格的なDPは世界で初めてとのことで、その意義を強調しつつ、ごく簡単な趣旨説明がなされました。
その後、討論前アンケートに回答。時間内に回答しきれずに回収が遅れた方もそれなりにいたようです。
ちなみにこの時点でグループごとにかたまって座り、モデレーターが資料配布・回収でお手伝いしています。
その後、BSE問題に関してまとめた10分ほどのビデオが流されました。
見学者は私を含め20-30名くらいでしょうか。

10時半ごろ、グループごとに教室に移動。
討議の前に、メンバーに写真撮影をしてもよいかの確認をモデレーターがとり、可となればドアの紙に小さく「OK」と書かれます。
報道関係、見学者は撮影のルールを示した紙を渡され、了解したうえで撮影を行うことができました。

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いろいろ撮影させていただきましたが、個人の方のお顔も映っているので本ブログでは掲載しないことにします。
私が主に見学した部屋は1名欠席したため15名の参加者の方がいらっしゃいました。
男性9名、女性6名、20-30代の若い方から、60-70代の方まで、年齢にも幅がありました。

■前半グループ討議「これまでのBSE問題について」
午前中はこれまでのBSE問題に関して、わからないことなどを質問としてまとめる作業を行います。
私がいた班では以下のような質問がでました。
・プリオン病とはそもそもなんなのか
・牛以外ではそのような病気はないのか
・検査と発表は信用できるのか
・どれくらい食べたらどのような影響があるかわかっているのか

議論は滞ることもなく、お互いに敬意をもちつつ、非常にスムーズに進みました。
イベント参加希望者のみが参加しているとはいえ、日本人の対話力は諸外国にくらべてもなんら遜色はないように思えます。

また、話を伺っていると、「専門家や行政の検査や、国の発表は信用できるのか、原発事故の件で信頼しにくくなっている」「放射性物質のように何ベクレルというのがあればまだわかるのだが、プリオンの場合はどうなのか」などといった意見もあり、原発事故の影響が議論に少なからず影響を与えているように思えました。

最終的に上記の一つ目と四つ目を質問としてまとめることになり、午前中は終了となりました。

■専門家との全体質疑
午後は12時45分から再び大講堂へ移動しての専門家への質問時間です。
専門家としては以下3名の方々がいらっしゃいました。
・須藤純一氏(酪農学園大学、畜産学が専門)
・堀内基広氏(北海道大学、プリオン病研究が専門)
・町村均氏(町村農場社長)

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主催者司会で、質疑が進行していきましたが、専門家の説明がちょっと物足りない気がしました。
よく見ると、専門家の方々の前にスタッフが陣取り、ノートPCの画面に回答残り時間が表示されています。
どうやらこの制限時間が一つの原因だったようですが、後半は専門家の方々も少し慣れてきた様子でした。

しかし、それでも質問⇒回答、次の質問⇒回答、の繰り返しで一方通行感がぬぐえません。
これは、DPにおいては再質問は基本的に認めない、という原則に従っているためです(後で聞いたところによると)。
やりとりがどうしても一方向になるので、全体の空気が後半は明らかにややだれているようでした。

午後のグループ討議の最後には参加者から「イラギュラーなやり取りがなく、物足りない」「はぐらかされている気がする。国会答弁的」という意見が出ていました。
ここは大きな課題のように思えます。少なくとも、専門家が質問の意図を正確に把握していなかったり、明確に答えられていないときは、時間が許す限り、司会者が再質問すべきだったように思えます。
このような課題は、今回のような込み入った知識に基づく、科学技術に関するDP特有の問題なのか、そうではないのか。
今後の考察課題でしょうか。

■後半グループ討議「これからのBSE対策をどうすべきか」
30分間の専門家との全体質疑の後、再び教室に移動して後半のグループ開始です
後半のグループ討議は14時半から16時まで。
テーマは今後のBSE対策、全頭検査をどう考え、どうすべきか、です。
選択肢として冊子には以下4つが示されています(文章はちょっと変えてあります)。
A)全頭検査をこれまでどおり継続する
B)全頭検査の必要はなく、屠畜される牛のうち、21月齢以上の全頭のみを対象に検査する
C)全頭検査の必要はなく、屠畜される牛のうち、48月齢以上の全頭のみを対象に検査する
D)全頭検査の必要ない
(*「全頭検査」とは屠畜されるすべての月齢の牛に対する検査のこと)

以下のような意見が出されました。
・全頭検査は消費の値段にはねかえってくるだろうが、それがどれくらいなのかよくわからない。
・全頭検査だけにお金を使うのではなく、原因解明の研究や、検査精度を上げる研究などにもお金をまわすべき
・研究者を増やしたり、それを支援するのも必要
・情報が明らかになる仕組みが必要
・子宮頸がんの検査も若い人はやらない。若い月齢の牛の検査も限界があるならやる意味がないかもしれない
・消費者に選択ができればよいのであって、必ずしも全頭検査は必要ないのではないか
そもそもの解明や防止についての議論に偏り、実際にBSE牛が見つかった時、売られてしまった時、食べてしまった時、病気になってしまった時(おそらく原因特定は困難だが)、どうすべきか、といった議論はありませんでした。

全体としては「全頭検査は必要ないのではないか」という方向に意見が変わったように思えました。
しかし、参加者の方からは、「冊子をみると、全頭検査はしなくてもよい、という方向でまとめられているようにも読める」「全頭検査をやめたい、という意図ありきでのイベントなのかも?」といった意見もあり、このイベント自体のスタンス、意義について腑に落ちない点があったようです。これは非常に重要なことだと思います(後述)。

■再び専門家との全体質疑
16時15分、後半グループ討論を終えて、大講堂に集まりました。
ただ議論が長引いたグループも2-3あったようです。

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会場では多数のスタッフの方々が走り回っています。本当にお疲れ様です。

質疑では、「実際に専門家の皆さんは全頭検査についてどう考えているのか」という逆質問がありました。するどい!
町村氏からは、現在も牛乳の放射線検査を独自に行っていること、町村農場は酪農が主のためBSE検査にコストをかけられるかというと難しいとの回答。
堀内氏は「プリオン研究の現状はどうなっているのか」という質問に対し、プリオン研究は十分な資金を得ているが、稀な現象であるため必ずしも研究者は多くないこと、研究はなかなかすぐには進まない、といったお話がありました。
後半質疑は前半よりも盛り上がりがありましらが、それで基本一方通行です。

質疑の後、18時ごろに討議後アンケートを答える時間がありました。
そして閉会式。

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今後の分析を行い、科学技術についての社会的な議論の手法として有用なのかを検討していく、とのお話が主催者代表の杉山先生からありました。

■デブリーフィング: 今回のDPの課題
19時からモデレーターが集まってデブリーフィングを行いました。またも私もお邪魔させていただきました。
いろいろな意見、改善点が出されましたが、共通の課題としては、「我々は何者で、今回のイベントは何のために行ったのかが参加者に充分伝えられていない」という点が挙げられます。

「今回のイベントの意図はなんなのか」「ずいぶんお金をかけているようだが、行政かどこかに意見をあげるのか」「モデレーターはどのような背景を持つ人なのか」「全頭検査を廃止したいのか」といった質問が、あちこちのグループで出たようです。

今回のDPには2重の目的がありました。
一つは、BSEに関して議論するという目的。
もう一つは、科学技術に関する問題についてDPが有効かどうかの研究を行うためのデータを収集する、という目的です。
しかし、後者の目的は参加者にとって実際の議論する上ではさほど重要ではありません。
参加者はDP研究に興味があって話し合いに参加しているのではなく、当然ですがBSEに実際の関心があり、参加していると思われます。

DPがなんであるかを詳細に説明すると、質問紙の回答や議論の内容に影響を与えてしまう、という懸念があるため、あまり事前には明らかにしない、というのはやむを得ない点ではあります。
ですが議論したことを何に使うのか、何を目的にした議論なのかを明らかにしないと、参加者にとってはモヤモヤ感が残ってしまうでしょう。主催者の立場を明らかにしないと、当然警戒感もうまれます(今回はそうはいってもそんなに深刻なものではないとは思います。これまで日本で開催したDPすべてに参加してきたOさんも話し合いは大成功とおっしゃっていました。)

DPは本来、その議題となることが争点となっているような選挙等の期間にぶつけて実施することで完結するものだと思われます。
しかし今回それもないので、参加者個人の行動(投票)として、今回のDPの意義を十分に説明することはできません。
では主催者としてはどう説明するのか?

こういった市民参加の議論手法において、主催者の正統性、参加の正統性をどう明らかにするかは非常に重要な点です。
いろいろ考えさせられました。

さておき、質問紙調査とグループ討議の分析手法とその結果、そしてDPのような手法を誰がどのように運営していくか、など非常に興味深いので、これからもウォッチし続けていきたいと思います。

【追記 2011.1.14】
報告書と当日の様子を撮影したビデオが公開されました
・BSE問題に関する討論型世論調査 報告書
・ビデオ