認知の認知

本郷界隈で打ち合わせのあと、やってきたのは東大本郷キャンパス工学部11号館。
スタバとかありますよ。

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目的は、JST-RISTEX「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」公開ワークショップ「超高齢社会におけるこれからのまちづくりを考える」に参加するためです。

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このRISTEXの研究領域は昨年度の平成22年度からはじまりました。
高齢化社会の問題解決のための社会技術を、コミュニティにおいて実践的に研究するグループに対して研究費が助成されています。
日本は2055年頃には65歳以上の高齢者が人口の40%にも達する超高齢化社会になります。ちなみに1950年代の高齢者率は約5%、現在は約23%です(平成23年度高齢化白書)。しかしこの数値は全国での数値ですので、地方の町村レベルではすでに30%を超えている地域もあります。

今回のワークショップでは、このような高齢化が進んだ地方における自治体の実践報告を聞くことができました。
地域は福岡県大牟田市、石川県加賀市、熊本県山賀市、静岡県富士宮市の4地域。
テーマは認知症です。

会場の講堂は舞台のような感じでちょっと面白い。

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大牟田市は10年近く認知症対策を行ってきた先進地で、今回参加した他の市も大牟田市の取り組みを参考にしていました。
大牟田市では以下7つの取り組みを行っています。

1)啓発型実態調査。2)認知症コーディネーター養成研修。3)認知予防教室。4)徘徊模擬訓練。5)小中学校絵本教室。6)若年認知症交流会。7)地域認知症サポートチーム。

認知症コーディネーターとは認知症予防と対策についての知識をもち、地域に貢献するボランティアで、市で2年間の研修プログラムを実施し現在9期です。全国の認知症サポーター100万人キャラバンと連携しているようです。

このコーディネーターは専門医や包括支援センターの職員と連携して「地域認知症サポートチーム」として機能します。この支援ネットワークは小学校区を基盤にして活動しているとのことでした。やはり地域を分けて対応する場合、小学校区は一つの目安になるようです。
大牟田市では現在22すべての校区ごとに、「小規模多機能」というコンセプトで、子どもから高齢者までが交流できる介護予防拠点・地域交流施設を設置しています。

大変興味深かったのは徘徊ネットワークづくりと「徘徊模擬訓練」です。
徘徊ネットワークは、徘徊事態が起きた場合に情報を流して発見をするための組織で、タクシー・バス事業者、郵便、市役所、そしてボランティアなど現在102名から構成されています。実質的に徘徊事態がおきたとして訓練を行う点が非常に実践的ですが、「安心して徘徊できる町」というモットーが面白いですね。

次の加賀市は冒頭で今話題のレディーカガをひいて観光もアピール。

入所施設をつくっても要介護度が低い人も入所を希望するため待機者は減らないという現状、そして一度入ると外に出られない大規模郊外型施設の問題が指摘されました。
加賀市では大規模施設から小規模型まちなか施設への転換を行っています。この施設は学童保育と介護予防拠点が併設されており、小規模多機能というコンセプトは大牟田市の取り組みと共通しています。
この施設は地域の歴史ある建物を改修しているという点も、高齢者のこれまでの生活とあわせる点で重要なポイントとのこと。

山賀市の報告で参考になったのは成年後見人の育成を行う権利擁護ネットワーク。需要は増えているとのことです。
富士宮市ではまず認知症対策をとる前に、介護予防家族、支援課職員。包括、社供でワークショップをおこない認知症みまもりのビジョンを作成したそうです。
配布資料によると、5年間で7,787人の認知症サポーターを養成したそうで、富士宮の高齢者は29,833名、うち認知症約7,000名ですので、その比は1:1を超えています。実際、認知症サポーターは平成23年度で300万人にも達しています。しかしこれらの方に如何に実働してもらうかが問題でしょう。

4都市の報告の後は、これらの取り組みをどう広げていくか、といった点についてディスカッションが行われました。
これまでの日本の高齢者対策は身体機能を中心とした「寝たきり老人」対策であり、認知症対策は遅れているとのことです。そしてその対策は地方が先導しています。
人口規模が10万程度で車で30分ほどで行けるある程度コンパクなまちが、行政が把握しやすい規模なのかもしれないが、都会ではできないということはなく、社会資源は都会の方が明らかに多い。地域の特性をよく把握することが必要との指摘が自治体の方からありました。

かつてまちには、高齢者が町の中で生活していける仕組みがあったと思われます。
しかしそれが核家族化、少子高齢化、過疎化でなくなりました。それをただ取り戻すだけではなく、高齢者率が5%から40%という数の問題、さらに虚弱・認知症という質の問題をふまえて全く新しい仕組みをつくることが必要なのです。

印象深かったエピソードがありました。認知症の方が対象の工作教室のようなものを実施した時、はさみを持って歩いていたため近所で騒ぎになり警察が呼ばれたそうです。また、認知症の方を外に出さないなど、存在を隠すことも多いそうです。
超高齢化社会を迎えるためには、認知症に対する認知を改める必要があると思われ、それは人の精神に対する考え方の再考を余儀なくさせるでしょう。