プロセス研究の方法 (臨床心理学研究法 第 2巻) (2008/07/10) 岩壁 茂 |
S研輪読ゼミ第3弾の課題図書。
臨床が重視され、事例記述や量的研究が多かった心理学ですが、変化のプロセスを丁寧に拾い上げることで、その変化の原因に関する知見を積み上げていく質的研究も重要性を増しているそうです。
本書はそのプロセス研究について、歴史、理論、方法(セラピスト視点、クライエント視点*1、研究者視点)、その問題点、具体的な研究事例などについてまとめられています(*1 心理療法では医者・患者とは呼ばない)。
引用文献だけではなく、各章末には概要を記した「学習を深めるための参考文献」もあり、親切な構成になっています。
また、「プロセス研究を進めるプロセスでおこる問題」「論文執筆の苦痛とトラブルを少しでも軽減するための対策」が表にまとめられていたりと、なんと親切な本。
上記の表には「終わってから:自分の研究は失敗だと感じる」「数年たってから:できれば忘れたいと思う」などと書かれており、研究一般のあるあるネタとして読めます。
ということで本書は心理学の研究を学びたい人だけではなく、質的な研究手法について学びたい人にも有用な本になっています。
しかし、色気がないというか、華がないというか、パッと見てそんなことを思わせる本ではない、ところが欠点でしょうか。
目次をみてもどの章も同じに見える・・・
でも内容は非常に整理されていて丁寧な本なのです。じっくり読めば得るものは少なくありません。
(ただし「アナログ研究」「直面化」など心理学用語について解説なしで書かれている場合があります)
余談になりますが、質的なプロセス研究は科学技術コミュニケーション研究を行う人にも参考になるでしょう。
例えば、科学技術関連のイベント評価では来場者の評価ばかりが行われていますが、話題提供者である研究者の意識の変化を見る研究は遅れているように思えます。
そこで、IPR*2を用いて、対話の場面において研究者がどのような点に困難さや意義を感じ、意識変容が起きたのかを明らかにし、カフェの企画・進行の改善、研究者への参加促進に役立てるという研究が考えられます。
(*2 対人プロセス想起法(Interpersonal Process Recall: IPR) 対話場面を録画し、それを振り返ることでその時の内的体験を明らかにする方法)
1.サイエンスカフェ当日を録画
2.終了後のデブリーフィングで、ゲストスピーカーの研究者と分析者が録画を見る
3.ゲストスピーカーが違和感を感じた部分でテープをとめてもらい、その理由を分析者が聴く
4.3の録音を文字起こし(10件ほど事例を集める)
5.内容をグランデッドセオリー法でコーディング・カテゴライズ
6.カフェの構成と上記コードを合わせ、問題が起こる場面と内容について整理。具体例についても数例記述
ぱっと思いつくまま書きました。どの切り口で何を捉えるか(基盤とする理論と目的)はもっと考える必要があります。
そもそも実施だけで大変なのにこんなことやっていてもコストがかかるだけ、という場合もあります。
しかし、理系から科学技術コミュニケーション分野(特にイベント系)に入った人は、実施以前に、どのような研究手法があり、どうう研究して記述したらよいかわからない、ということがよくあるように思えます。
そんな人にも本書は大きなヒントになるでしょう。