専修大学で11日から3日間開催される第76回日本心理学会に参加してきました。
前回の発表は2008年ですので随分久しぶりです。
小田急向ヶ丘遊園駅から出ている無料バスで会場まで移動。
バス停では炎天下、スタッフの方が誘導されていて少し申し訳なくなりました。
さてポスター発表では、高齢者の健康維持と社会活動性向上を電動アシスト自転車等を活用した外出促進ですすめよう、という研究についてまとめました。
恥ずかしながら詳細な再分析をすることが間に合わなかったため、実践研究であるということを全面に出すことと、少ない素朴なデータの見栄えを良くする方向にしぼってポスターを作りました。
また、来ていただいた方とのディスカッションもポスターのコンテンツとするため、最後は空欄にして付箋を貼るスペースに。
内容としてはざっくり以下の通り。
・研究の第一段階として、高齢者の使っている乗り物を質問紙調査で把握
・運動・認知機能的にミスマッチな乗り物に乗ってしまっている高齢者の特徴を洗い出す
→自転車は高齢者の重要な足だが、女性の利用が多く、男性が少ない
→自動車利用者のなかには少数だが足腰が弱った方もいる
→高齢者は運動機能の自己評価中心に乗り物を選んでいる?
→一方、認知機能はあまり考慮されず、車利用者、自転車利用者、非利用者のどこにも少数だが認知機能が衰えた方がいる
この質問紙は独自に作成したものではなく、掛川市が介護予防制度改善のために実施し、そのデータの提供を受けて、自動車や自転車の利用についての分析に使用したものです。
そのため、運動機能と認知機能の指標として厚労省の健康チェックリストが使われています。
これらの項目が運転の運動・認知を見るのに適した項目なのか、という問題もあります。
また、そもそも別の目的で作られた質問紙なので分析しにくいといった点もあります。
そういった点を解決する情報を得ることが今回の学会のミッションでした。
初めに来ていただいた方に「見た目がきれいだったから来てみたの!」と言って頂けただけでなく、心理学もこういった実社会とつながる研究をもっとしなければ、と言って頂きありがたく思うと同時に、意図が通じたと安堵。
他にもこれは「選択」の研究である、という正鵠を射た命名を頂いたり、個別の身体能力を質問紙で聞くだけではなく、実在の危険な道でどのような行動をとるのかと突き合わせたらよい、というコメントをいただけて大変参考になりました。
■高齢者は自己の運転能力をどう評価するのか?
質問紙調査では自己評価しかわかりません。
しかしその自己評価は信用できるのか?(何も高齢者に限ったことではありませんが)
この点について、「高齢者の運転調整に関する認知と行動の二時点間比較」という科警研の研究が非常に参考になりました。
事故を避けようと車の運転に気を付けたり、運転そのものの頻度を下げたりという運転調整行動は、高齢になるほど増えるそうです。しかし、これがどのようにして起こるのかについてはまだわからないことが多いので、そこを調べた研究でした。
高齢者に質問紙で運転能力自己評価、運転調整行動などを調べるとともに、事故率の指標となる有効視野(UFOV: Useful Field Of View)検査を使って身体機能もチェック。
そして2年後に同じ高齢者の方々に同じ質問紙と検査を受けてもらう、というもの。
結果は、2年度には有効視野が狭くなり、実際の事故の可能性が高まっていました。
一方で自己の運転は上手であるという評価は一定であり、安全であるという評価は高くなる(!)という、運転調整行動を抑制しそうな結果となりました。
がしかし、運転調整行動は増加していました。
運転調整行動は自己の運転能力に関する自己評価だけではなく、他の要因によっても引き起こされるとのことですが、やはり高齢者が運転能力を高めに見積もっているようです。
私達の「高齢者は自己の認知機能ではなく運動機能を元に移動手段を選択しているのでは?」という結果についてもディスカッションできて非常に参考になりました。
また、被験者の高齢者の方から「車の研究もいいけど、自転車の研究もしてよ」と言われたことがある、と伺って意を強くしたのでした(←すぐ木に登る)
明日も期待大の心理学会でした。
【参考】
高齢者における運転調整行動に関する研究動向 (特集 運転者の心理的・人間工学的特性)
小菅 律
平成22年度警察庁委託調査研究報告書
講習予備検査等の検証改善と高齢運転者の安全運転継続のための実験の実施に関する調査研究 報告書
(平成23年3月)
平成23年度警察庁委託調査研究報告書
講習予備検査等の検証改善と高齢運転者の安全運転継続のための実験の実施に関する調査研究(Ⅱ) 報告書
(平成24年3月)