科学技術社会論学会で川本・佐々木と成田が発表

12月9・10日に大阪大学で開催された科学技術社会論学会で研究室のメンバーが発表をしました。川本と連名で発表したM1佐々木さん執筆の報告を以下に掲載します。


2023年12月9日~10日に大阪大学で行われた科学技術社会論学会に参加しました。私はオーガナイズドセッション(OS)「フィクションはデュアルユースの夢/悪夢を見せるか?」に川本先生と連名で名前を載せていただき、一緒にデュアルユースフィクションのリストを作成しました。特に私は『仮面ライダー』や『大病院占拠』などを担当しました。当日は直接的な発表は行わなかったものの、各発表から新たな知見を得られただけではなく、学会の流れも把握することができました。ここに参加報告という形で文章を残させていただきます。

関与した発表の振り返りと感想

始めに、川本先生・四ノ宮成祥先生・宮本道人先生・三成寿作先生・吉澤剛先生のOSに参加しました。このOSでは、専門家と非専門家間のコミュニケーションや、今後出現するかもしれないデュアルユース技術への予見性の向上、負の事態が生じた際の社会的言説の土台になる可能性といった点から、デュアルユース技術の管理に影響を与え得るフィクション作品において、デュアルユースがどのように描かれているのかということや、ストーリー制作への専門家の関与について、その課題と可能性についての議論および発表が行われました。

最初に、川本先生が「フィクションにおけるデュアルユース:その実例と課題」というタイトルで軍民両用性や用途両義性に限らず様々なデュアルユースが描かれている作品を挙げ、それらの中から共通して見られる展開や状況を説明しました。また、そのような作品は見た人がデュアルユースの表面的な問題を越えて真の課題に気づいたり、予見性を向上させる可能性を持つ一方で、ストーリーとして最悪の事態が描かれることが多いため科学の信頼を失いかねないことや、予見の正確性といった点で課題もあると指摘されていました。

四ノ宮先生は「デュアルユース:漫画ストーリーからのバックキャスティング」というタイトルで発表をしました。先端生命科学技術のデュアルユース性に焦点を当てて作られたストーリーについて、意識啓発のために作成されたものと、物語性を重視して作成され、バックキャスティングによりバイオセキュリティへ言及されたものとの間にある読者に与える影響の差異について発表されました。加えて、このようなストーリー作成への専門家の関わり方についても論じられていました。

宮本先生のパートでは、「イノベーション、あるいは誇大広告:虚構で未来を議論する『SF思考』の創造的欺瞞」というタイトルの下、SFプロトタイピングという手法とその課題について発表されました。この手法は、複数人が参加してサイエンス・フィクションを創作し、未来像を作成・議論・共有するものです。また、発表ではSFプロトタイピングが本来の目的から逸脱してしまうという課題や、本来の目的に再び焦点を合わせるための議論についても伺うことができました。

三成先生・吉澤先生のパートでは、「ELSIやTAを取り巻くHypeとHope」というタイトルで発表が行われ、科学技術政策に関して倫理的・法的・社会的課題(ELSI)と技術影響評価(TA)に注目が集まっていると述べられました。これらは、科学技術の進展とそれが社会に与える影響を考慮に入れ、未来を予測しますが、情報の誤伝播や極端な将来像に対する批判も存在すると指摘されました。そのため、専門家や一般市民との対話や、多様な見解の組み合わせが重要であると示されました。

発表を通して、個人的には、四ノ宮先生が仰っていた「ユートピア↔ディストピア」や、三成先生・吉澤先生が仰っていた”Present future vs Future present”のような対になるものを提示して議論を促すというのがまだ曖昧ですが自分の研究にも活かせるのではないかと思いました。やはり議論を促す際には何かイメージをつかむためのものがあった方が良さそうで、その点でも対比になっている2枚のイラストを提示したり、フィクションを用いたりするというのは有効なのかな、などと感じました。また、宮本先生が仰っていたSFプロトタイピングも大変興味深いものでした。そもそものSFにファンがいるというのはSFを用いることの強みにもなり、しかし一方でファンのためのSFになりすぎてはならず、SFを通して技術の都合の悪い部分も見せながら未来と向き合っていく必要があるのだと学ぶことができました。

美味しいご飯とオフ会話

先生方の発表が終わった後はお昼ご飯をご一緒させていただきました。先生方とはほぼ初対面で、私はまだ進路も決められていないようなぺーぺーの修士1年生、正直どんな雰囲気の中どんな話をするのだと緊張してしょうがなかったのですが、水平思考の話、食事のおいしさを増幅させる器の話、マヨネーズの語源の話等々さまざまなお話を和やかな雰囲気の中お聞かせいただけてとても楽しい時間を過ごすことができました。本当にありがとうございました。

お昼ご飯から戻り、公開シンポジウムを拝聴し、その後懇親会に参加しました。どのように立ち回るのが良いか分かっていなかったのですが、川本先生、宮本先生が私のことを紹介してくださって何人かの先生方とお話しすることができました。紹介していただくとき「仮面ライダーに詳しい」と紹介していただいたのがちょっと面白かったです。確かに学会発表に仮面ライダーという文字をねじ込んでくる人はそうそういないだろうとは思いますが、何はともあれそのように紹介していただいたおかげで、そこから話を続けることもできて、なかなか女子大学院生にはない肩書(?)とともに紹介していただけてよかったです。ありがとうございました。

セッションを巡って

2日目は自分の興味が赴くままに様々な発表を聞きました。ざっくり列挙すると、ELSI・RRIのセッションで行政や専門家が科学コミュニケーションを行う際の問題点とその解決策、SFプロトタイピングの実践例、原子力のセッションで原子力を起因とする科学コミュニケーション面での諸問題、アンドロイドとジェンダー問題、フェムテック技術(女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決できる製品やサービス)の両義性といった感じです。原子力関連のセッションでは、CoSTEP研修科所属でゼミメンバーの成田吉希さんも発表されていました。成田さんご自身のマーシャル諸島やソロモン諸島に滞在していたという経験談が上手く盛り込まれていて、成田さんならではの発表になっていたのではないかと思います。質疑応答の時間でもたくさんの質問を受けていて盛り上がりが見られました。お疲れ様でした。

特に印象に残ったこととしては、石川肇さんのSFプロトタイピングの実践例のお話の中で「絵(イメージ)で伝えると言葉のときとは違う影響がある」ということや、「お題の中に固有名詞があると現実に縛られてしまってよくない」ということでした。これについては今後自分が何か行う時にも考慮しなければならないと思いました。また、ロボット研究とジェンダー問題についてのOSでは発表後の質疑応答でも様々な意見が飛び交い白熱していました。やはりジェンダーについてはあらゆる面で線引きが難しそうなので様々な意見が出てくるのでしょうか。かくいう私は、女性型として制作したアンドロイドにジェンダーレスファッションを施して検証した、というお話を聞きながら「ジェンダーレスファッションって曖昧だし、アンドロイドにさせるの難しいな」と思っていました。

総括

2日間にわたりたくさんの話題について学び、また、2日間を通じて「科学技術は様々な場所で複雑な問題を抱えており、それに取り組むのは容易ではない」ということを強く感じました。実際に科学の研究を行っている人々にも、科学が直面する種々の問題と、それらの解決に向けて研究している人々がいるということが伝わることを願っています。

最後にこのような場所に連れてきてくださった川本先生、一緒にお食事をさせていただいた四ノ宮先生、三成先生、吉澤先生、宮本先生、桐山さんに感謝申し上げます。また宮本先生には2日間通して本当にたくさんお世話になりました。ありがとうございます。

来年の学会ではぜひ私も演題登録をして発表させていただきたいと思いました。ありがとうございました。


 

以下、参考になる発表(川本まとめ)

専門知

  • 科学コミュニケーターの専門性―コリンズ&エヴァンズの専門知論と科学コミュニケーションの垂直モデル/水平モデル―
    内田 麻理香(東京大学)
  • 岐路に立つ専門知と政治:日本のCOVID-19 ガバナンスと今後の課題
    佐藤恭子(スタンフォード大学),田中幹人(早稲田大学),○寿楽浩太(東京電機大学)
  • 社会的意思決定における専門家およびその知見の誤用について
    調 麻佐志(東京工業大学)
  • 昆虫学分野におけるアマチュアと職業的研究者の協働
    齋藤 芳子(名古屋大学)

デュアルユース(軍民)

  • 日本物理学会における 1967 年「決議 3」成立の過程-第33 回臨時総会開催にいたるプロセスと民主主義
    吉野 太郎(関西学院大学)
  • 内閣府主導「K Program」と防衛装備庁「安全保障技術研究推進制度」の 異同/相似が示すこと
    山本由美子(大阪公立大学)

教育・コミュニケーション手法

  • 福島原発震災に関するSTEAM 教育教材の開発 -原発・多重防護・電気料金・意思決定・放射能汚染の被害者の裁判・ロールプレイ・ディベートを中心に-
    平井 俊男(大阪府立長尾高校)
  • 科学コミュニケーションを応用した研究倫理教育が研究者育成に及ぼした影響
    小林 俊哉(九州大学)
  • 参加型手法を活用して生徒の意思決定・合意形成を支援する理科ワークシートの開発
    福井 智紀(麻布大学)、宇都宮 俊星(藤沢翔陵高等学校)
  • SFプロトタイピングを用いた未来の健康な生活についての市民対話
    石川 肇(日本ファシリテーション協会)

その他

  • 成田 吉希(北海道大学)、阿部 真人(国際連合ミクロネシア多国籍間事務所)
    「マーシャル諸島の核遺産に関する国連人権理事会決議の条文分析」
  • 生活者が科学技術を評価するための仕組みの必要性と課題―『暮しの手帖』の商品テストと日本工業規格JISを例に
    西川 晃弘(大阪大学)
  • 科学技術の要素を含むデモンストレーションとメディアの関係性の意識傾向~航空自衛隊ブルーインパルスに関するアンケート調査から~
    藤吉 隆雄(津田塾大学)
  • 生命科学論文における図の「色」を考える:カラー化の進行とその課題
    有賀 雅奈(桜美林大学)
  • なぜ日本ではHPV ワクチンの接種が進まないのか?
    KANG KIWON(大阪大学)