太陽光をめぐるコミュニケーション

(2011.2.2 グラフを追記)

太陽光発電の普及に関する研究を行っている掛川市で、太陽光発電に関係する様々な分野の方々をあつめたワークショップを共同研究者の皆さんと開きました。

20101124-1

集まったのは、市長・市議会、市役所、設置業者、卸業者、住宅メーカー、金融機関、消費者団体などの方々。

現在日本では、個人や集合住宅への太陽光パネルの導入が進められていますが、導入時の高負担(200万円前後)、長期的政策の欠如(政権交代のごたごた)、家という生活の根幹にかかわる設備への設置(ライフスタイルの変化を要求される、設置に専門業者が必要)、故障やメンテナンス体制の未確立など、様々な問題があります。

これらの性質は従来の工業製品にはないもので、「不完全」な太陽光発電の普及、特に「地域における導入」(非大規模・利益の地域還元)には様々なステークホルダーによる商品としての太陽光発電の改善が必要になっています。

しかし、ステークホルダー間の交流は一部を除き、特に活発ではありません。それは太陽光発電の課題が、政策というマクロなレベルの課題であったり、課題がまだ表面化していないために製品を売る-買うという一方向的な従来型の関係にとどまっているためと考えられます。

というわけで、ワークショップでは様々な人に集まっていただき、現在太陽光発電に関してどのような活動を行っているかを共有し、その上でどのような役割を他者に期待しているのかを共有しました。

詳細な結果についてはここでは明らかにできませんが、全体的な印象としては、「地域における太陽光発電」という観点においては、意識がまだ共有されていないということ、自分の活動を踏まえて意見を出したり、協働を提言したり、というよりは、まだ情報を求めている段階のように思えました。これは特に消費者の立場で強いようです。

イノベーションの普及については5段階のモデルが示されています。
1. 知識 Knowledge 知っているだけという段階。ただしニーズがあって初めて情報が知覚される
2. 説得 Persuasion 知識をもとに、態度が生じる段階。さらに知識を得ようとする
3. 決定 Decision 導入するかどうするか決定する段階
4. 導入 Implementation 実際に導入、使用する段階
5. 確認 Confirmation 使ってみて今後も使用するかどうか判断する段階
これらの段階を経る時期や期間、そしてその理由は人によって違いますが、これらの段階のステップアップには他者とのコミュニケーションが大きくかかわっていると言われています。

感覚的なものですが、このモデルと掛川での事例をあわせると、すでに太陽光発電において導入・確認の段階にある人々(すでに導入している掛川の一般の方)から、説得の段階にある人々(消費者団体やその他興味のある一般の方)への情報提供を行い、両者のつながりを作り出すことが重要に思えます。その上で、行政や業者などとの連携の具体化へ進むのが良いのかもしれません。

ちなみに掛川市の太陽光発電導入率は世帯当たり2.71%です。

20101124-2

(掛川市提供の資料から作成)

一見順調に伸びているようですが、縦軸はたったの3%です。
掛川市では市内すべての住宅に太陽光発電設備を導入することを市長が目指しています。
2030年までに100GWの導入を目指す「2030年に向けた太陽光発電ロードマップ(PV2030)」をとりあえずの目標として、2030年に掛川市で導入率100%を達成するとすると、以下のようなグラフになるでしょうか。もちろん立ち上がり時期などは適当です。

20101124-3

現在はまだ微々たる増加率ですので、もっと高い増加率にする必要があります。
ここで必要なのはやはり政策ですが、政策とは何もお金を出す仕組みだけを指すのではありません。

すでに太陽光パネルを導入している人々は、環境貢献や経済的利益も導入理由にあげていますが、技術的関心度も高いという傾向があります。こういった人々と異なり、これからの人々は必ずし太陽光発電そのものに価値を見出すのではなく、より商品として妥当性の高さを求めるでしょう。
また、太陽光発電の導入の是非を考える上で、太陽光発電は何を可能にし、社会にどういった変革をもたらす可能性があるのかを考える必要があります。これはある意味、従来の製品を考えるときの目線とは異なる延長線上にあるのかもしれません。

こういった商品としての妥当性の向上や、太陽光パネルの持つ意義を多様な人々で議論するという意味で、自治体がコミュニケーションを促進する役割を果たす意義は大きいと思います。
また、企業としても新しい産業を育てるという観点と、地域貢献とマーケティングを兼ねるという観点からも、役割は大きいように思います。

大学の役割、科学技術コミュニケーション研究としての役割も大きいと思いますが、従来の経済学、イノベーション研究とはまた異なった観点と方法論でどう切り取るか、が課題です。