科博の企画展「大哺乳類展~陸のなかまたち」に続き、「海のなかまたち」の内覧会を見に行きました。
前回の「陸の仲間たち」のときは図録をいただけなかったのですが、今回は非常に充実した図録がもらえました。これはうれしい。
鋭い歯をもつシャチ Orcinus orca の頭骨。シャチは骨になってもスピード感にあふれています。
特徴的な歯をもつ小型クジラの骨格標本におやっと思いました。
これはオウギハクジラ Mesoplodon stejnegeri というハクジラだそうです。私は今回の展示で初めて知りました。
日本近海ではオウギハクジラ、イチョウハクジラ、コブハクジラ、ハップスオオギハクジラの4種がいるそうです。
オウギハクジラ類のオスの下あごには扇状の歯が生えているのが特徴で、それ以外に歯はありません。メスにも歯はありません。「ハクジラ」なのに。
歯が変形した海棲哺乳類といえば、オスの左上顎の歯が成長して角のようになったイッカクがいます。
イッカクの「角」はメスをめぐる闘争に使われます。
オウギハクジラの歯も大人になると扇状になるのでなんらか性的成熟を示すシグナルとしての役割があるらしいのですが詳細は不明とか。なかなか面白いですね。
次に印象的だったのはやはり巨大なシロナガスクジラ Balaenoptera musculus の骨格標本。
やはりでかいのはインパクトがあります。
流線型のフォルムはコンセプトカーかと思うくらい美しい。
シロナガスクジラは頭が大きく4頭身くらいです。
でも頭が大きいというより、鼻先(上あごと下あご)が前へ伸長しているように見えます。
子どものシロナガスクジラの頭骨の形態はどうなっているのか気になりました。
やはり他の動物と同じく先端部の成長はあとから起こるのか?
マナティの赤ちゃんの標本はありましたが、他にはそういった標本はなく、発生・成長段階がわかる一連の標本があれば面白いな、なんて思いました。
ちなみにシロナガスクジラはシャチやオウギハクジラとは異なり、歯ではなく「ヒゲ」があります。
写真左がシロナガスクジラのヒゲ、右がナガスクジラのヒゲ。
シャチの鋭い歯、オウギハクジラの扇状の歯、イッカクの角状の歯、そしてシロナガスクジラのヒゲ。
非常に多様な形態があってとても面白いです。
特徴的な形態の歯やヒゲはどのように発生するのか?面白いテーマです。
とは言え、実験なんかができるような生き物ではないのがイルカやクジラです。
イルカやクジラの研究のおおきな柱になっているのが「ストランディング」個体による研究です。
圧巻のカズハゴンドウ Peponocephala electra の頭骨群。ヨーロッパにある人骨礼拝堂のようです。
これは鹿児島と茨城に打ち上げられた個体の一部だそうで、鹿児島には170頭以上、茨城には80頭以上が打ち上げられたとのことですから想像以上の規模です。
このように「ストランディング」とは浜辺などに打ち上げられてしまうことを指しており、そのようなストランディング個体をもちいて、形態、生態の研究や遺伝子を用いた系統解析などを行う研究をストランディング研究と呼びます。
しかし同行した人は「ストランディング研究=打ち上げられる原因の研究」と思ったらしく、しばらく「????」となっていました。
たしかに、明確な説明がなくそう勘違いしても無理はないかもしれないと思いました。
また、展示室の最後の方には研究者の方が作製したと思われる研究紹介ポスターが何枚もならんでいました。
研究者の方がいらっしゃってお話を伺うことができれば贅沢な展示になったのですが。
なんとなく涼しい海の底に行った気分になった今回の展示。外にでると生暖かい雨が降っていました。