今年度の「科学技術史特論」で読む本は悩んだ末、K Iatridis , D Schroeder『Responsible Research and Innovation in Industry: The Case for Corporate Responsibility Tools』(Springer2016)を選びました。RRIは科学技術コミュニケーションで重要な概念で、参考になる点は多々ありますが、一方でそれほど流行っていないように思えます(STSでは当然トピックではあるが、SCでは・・・)。
その原因は、理念先行で語られていて具体的になにがRRIなのか分からない、「ELSIの二番煎じ論」のがひとつ。もうひとつは、科学技術コミュニケーションが研究・大学ベースであり、実装・企業もからんでいくRRIに対する若干の距離感、忌避感もあるのでは、と思うところがあります。「RRIウォッシュ」や、「営利活動や“イノベーション”には乗らないぞ」論をのりこえ、いかに科学技術コミュニケーションにあらたな視点をくみこんでいくか。これはひとつの課題だと常々思っていました。
そんなわけで特に企業側からRRIを捉えた本書を選びましたが、さすがにこれだけだとRRIの歴史的文脈がわからないのでBゴダン『イノベーション概念の現代史』(名古屋大学出版会2021)および原著の一部も読むことにしました。
メンバーは院生4名、元CoSTEP研修科生1名。今年もキーワード解説集を全員で執筆し、HUSCAPで公開予定です。最終回では概念理解を確認するために、LSPワークショップもやる予定です。
キーワード解説集を公開しました。昨年度の反省をいかし、アルファベット順に40のキーワードを掲載しています。
- 『Responsible Research and Innovation in Industry : The Case for Corporate Responsibility Tools』キーワード解説集(2024年8月26日)
これまでの課題図書
2023年度: 『科学者の責任:哲学的探求』Jフォージ(産業図書2013)および原著
2022年度: 『我々みんなが科学の専門家なのか』Hコリンズ(法政大出版会2014=2017)および原著
2021年度: 『二つの文化と科学革命』CPスノー(みすず書房1959/93=2021)および原著
2020年度: 『専門知を再考する』Hコリンズ・Rエヴァンズ(名大出版会2007=2020)および原著
2019年度: ”The Handbook of Science and Technology Studies 4th edition” Felt et al., ed. (MIT press 2016)
2018年度: 『ペンタゴンの頭脳』Aジェイコブセン(大田出版2015=2017)および原著
”A Web of Prevention: Biological Weapons, Life Sciences and the Governance of Research” Rappert & McLeish ed. (Routledge 2014)
2017年度: ”Innovation, Dual Use, and Security: Managing the Risks of Emerging Biological and Chemical Technologies”(MIT press 2012)
2016年度: 関心のある科学技術コミュニケーション・STSの英文論文を選び、発表